第6章 掛け違えてたボタン
ここは宮殿の格納庫。
ジュリアスさんはレヴァードの修理と5機の
リオンのセットアップ作業に追われていた。
レヴァードの歪んだ肩アーマーを交換し、シールドを
スペアに持ち変えさせ、リオンのアリステアシステムの
インストール作業を精力的にこなす。
それも4機まで終わり、残すところあと1機というところで
管制室に連絡が入った。
キャラミティからの使節団を乗せた船が到着したというのだ。
「・・・予定より早過ぎやしないか?」
「来てるモノは仕方ないだろう、タグボートを出せ、
軍港へ誘導するんだ」
そんな罵声が飛び交う中、お父様とジュリアスさんは
いぶかしげな顔をしていた。
「やけに早いな・・・こいつのセットアップはどうする?」
「キャラミティの機動ユニットの搬入もある、
後回しでもかまわんだろう。」
「やれやれだ。とりあえず管制室に行くか。」
管制室から見える船は奇妙なカタチをしていた。
船体にコンテナを山積みしたような感じといえばわかるだろうか。
「こちらアルトリア入港許可を願う」
「ようこそ、レスティアへ」
タグボートが近づいていく。
船員がキャラミティからの船、アルトリアに曳航索を
くくろうとした瞬間、船はこちらに向かって急加速し、
タグボートを転覆させた。
「おい、なんのつもりだ!」
そして次の瞬間、船体にくくりつけられていたコンテナが
吹き飛んだ。発破したのだ。
そのシルエットは間違いなく軍艦。
「強襲揚陸艦かっ!」
その間もアルトリアは宮殿の方に向かって突っ込んでくる。
「ちっ、正面突破するつもりか。
レディス、武装した兵士達がじきにやってくるはずだやって
くれるな?」
「わかった!フィールを頼む!」
「いえ、お父様、あたしも援護します!」
一瞬の逡巡。
「よし、ついてこい。」
そして声をはりあげる。
「うろたえるな!我こそは麗騎士!兵士よ続け!」
お父様はあたしを抱き抱えると一気に管制塔から飛び降り、
正門のほうへ向かって駆けてゆく。
頑丈そうだった正門もレールキャノンによって吹き飛ばされる。
そこに向かってアルトリアは突っ込んでくる!
豪奢な建物を突き破り、アルトリアは中庭まで突っ込んできて
停船した。
船体のハッチが開き、武装した兵士達が格納庫のほうに
むかって駆けてくる。
なんで!?手際がよすぎる?
レスティア軍の兵士達は虚をつかれたかたちとなり散発とした
攻撃しかしかけていない。
明らかに押され気味だ。
あたしはお父様からぴょんと飛び降り、お父様の後ろで
左足に固定した指揮棒にも似た銀の杖を引き抜き、詠唱をはじめる。
お父様が先陣をきったことで回廊のあたりで
真っ向からの武力衝突が起きた。
抜刀したお父様は十数人を相手に戦っている。
詠唱終了まであと少し!間に合うか!?
銀の杖を3重の魔方陣が取り囲み、先端に光弾ができあがる。
「お父様、よけて!」
お父様はちらりとあたしを確認すると大きく柱の陰へ跳躍した。
よし、いける!両手で銀の杖を支え、光弾を放つ!
「いけっ!バスター!」
最近やっと使えるようになったちょっと高度な砲撃魔法だ。
まじめに城で訓練をしておいてよかった。
光弾は尾を引いて隠れ損なった敵兵十数人を吹き飛ばす!
砲撃魔法が終わったのを確認してお父様は再び剣を手に敵前に
躍り出るとひとり、またひとりと切り倒して行く。
なんとか制圧できるか?、そう思えたとき、アルトリアの
艦尾が開くのが見えた。
「お父様、あれ!」
「「イリーガルだと!?」」
そう、そこに現れたのはおそらくはルシーダちゃんが乗ってる
機動ユニットだった。
爆発的なフレアを背に、格納庫の方へまっすぐ飛んでゆく。
交戦しなきゃ!
そう思って回廊を格納庫に向かって駆け戻り格納庫に
入ろうとした時、目の前の床を銃弾がはねた。
「動かれては困るんですよ、シルフィールさん」
「ハロルドさん!?」
見るとお父様についていかなかった数人の兵士達が
あたしとジュリアスさんとローザさんに銃を向けている。
格納庫の屋根が吹き飛ぶ。
そこに現れたのはイリーガルだった。
イリーガルはランディングすると手に乗っていた
6人の騎士達を降ろした。
「トゥリーゼン卿!新型と4機は起動できます!」
ハロルドさんはトゥリーゼン卿と呼んだリーダー格と
おぼしきひとのところに駆け寄った。
「残りの1機はどうした?」
「残念ながら襲撃に間に合いませんでした。」
「・・・やむをえん、撤収する!」
リオンに乗り込む騎士達。
あたしたちににらみをきかせていた兵士はロープで
あたしとジュリアスさんを縛るとリオンの方へ駆けていった。
リオンが手をおろし、兵士たちが乗り込む。
リーダー格がレヴァードに乗り込もうとしたとき、
斬撃がハッチ付近を直撃した。
ソニックブレイド。
お父様だ!引き続き剣を振るうが、斬撃が届いたときには
コクピットに乗り込んだあとだった。
「残念だったな、麗騎士!」
一機、また一機とリニアクラフトで浮揚し、
アルトリアのほうへ戻っていく。
お父様は武器をレイブレードに持ち替え、飛び立とうとした
レヴァードに向かって駆け、跳躍した。
あと少しで届く、そのときイリーガルが間に立ちはだかった。
お父様はその場に踏みとどまり、レイブレードを
最大出力にしてイリーガルのサーベルの柄を叩き斬る。
イリーガルはチェーンガンをばらまき、接近を阻止する。
「いいぞ、ルシーダ!」
「・・・父様が喜んでいる。・・・・麗騎士、殺らせは、しない」
崩れ落ちた屋根の廃材を足場に、レイブレードで果敢に
斬りかかるお父様。
「・・・早いっ!?」
「邪魔だ、このっ!」
だが、イリーガルを撃ち落としたのはお父様のレイブレード
ではなく、他でもないレヴァードのライフルだった。
「!?お父様?」
「さようならだ、ルシーダ、お前はもういらんのだよ。
邪魔だ、消えろ。」
続けて2射、3射。撃ち抜かれたイリーガルはそのままお父様を
巻き込んで地表へと墜落した。
レヴァードはそのまま高度をあげ、アルトリアに取り付く。
するとアルトリアはそれを合図に機首を揚げ、
スラスターを全開にして高度を取ると軍港にレールキャノンで
砲撃を浴びせ、飛び去っていった。
お父様は無事のようだ。
ロープで縛り上げられたあたしたちを小刀で解放すると、
落着したまま身動きもしないイリーガルに向かって歩いていった。
動力もダウンしているようで、イリーガルはみじんも動かない。
「ハッチを開けるぞ、フィール、念のため下がってろ。
衛兵、銃を構えて前へ。
合図があるまで絶対に撃つなよ?」
お父様がハッチのスイッチをひねるが空かない。
「完全に動力がやられてるな。・・・聞こえるか?パイロット?」
コンコンとハッチをたたき、ハッチ越しに問いかける
ジュリアスさん。
「いまから強制解放するからな、命を粗末にするな、伏せていろ」
コクピット脇の強制開放レバーをひくジュリアスさん。
ドムッガシャン、がらんがらんがらん。。。。
ジャキッ銃を一斉に構える衛兵達。
だが、中には呆然とした少女、ルシーダがひとりパイロット
シートにすわったままでいるだけだった・・・。
「ルシーダちゃん!」
「おい、フィール!」
「大丈夫だから、お父様!」
あたしはコクピットにもぐりこみ、ルシーダちゃんの肩に手をやり、
ゆすって問いかける。
「ルシーダちゃん!ルシーダちゃん!あたしよ、シルフィールよ!わかる?」
だが、ルシーダちゃんは問いかけに応じようともしない。
いや、声が聞こえているのかどうかもあやしい。
ただ呆と、座っているだけだった。
医務室は大混乱だった。
その中でベッドをひとつ確保できただけでもラッキーだった
かもしれない。
ルシーダちゃんのパイロットスーツを脱がし、介護服に
着替えさせる。
その姿はまるで意志のない人形のよう。
大きなグリーンの瞳は何も映していない。
スーツを脱がしたとき、彼女の幼い身体に刻まれた
幾多もの虐待による
疵痕が生々しくあらわになった。
「これは、、、ひどいな・・・ろくに手当もされてない
じゃないか。
お父様は下がってて。レディの前なんだから。」
「わかった、着替えと手当が済んだら呼んでくれ。」
「お父様、軟膏と包帯ちょうだい」
「わかった。」
カーテン越しにお父様が軟膏と包帯を手渡してくれる。
あの夢はあなたのものだったのね・・・・。
ルシーダちゃんの生傷は大小あわせると全身にわたってあった。
「はやく助けてあげられなくてごめんね。」
介護服に着替えさせた後、瞳から涙がこぼれた。
「フィール・・・。」
お父様にすがりつき、涙をこぼす。
そこに医師がやってきてルシーダちゃんの診察をしてくれた。
医師はペンライトで目を照らしたり、手をにぎったり、
離したりした。
そして再び彼女をベッドに寝かせるとこっちにやってきた。
「よほど強いショックがあったんでしょうな、完全に放心しておる。
一体なにがあればこんな状態させることができるのやら。
それにあの全身の生傷、レディス卿、一体彼女は?」
「おそらくは唯一の肉親からの愛を求めんが為の彼女なりの
歪んだ誠意と努力の積み重ね、・・・そして裏切り。」
「まぁ、なんにせよここにいる限り、彼女は安全じゃよ、
お嬢さん。」
その言葉を聞いて、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。
「お父様、お父様、お父様ー。」
そして、あたしはわんわんと泣いた。。。
その後の捜索でキャラミティの使節団の船はアルトリアによって
撃沈されていたことがわかった。
あたしはルシーダちゃんの側にいて看病をしていた。
捜索艦隊の準備ができるまでの間、寝食を共にした。
もっとも彼女は食べようともしないので点滴で栄養をとるだけ。
食べたのはあたしだけだけど。
夢も見た。
「いいぞ、ルシーダ」
たったそんな些細な褒め言葉にココロから喜びを得た
ルシーダちゃん。
そしてその数秒後に告げられた断絶の言葉とライフル。
幼い彼女の硝子のココロは砕け散った。
父親を喜ばせようとして機動ユニットを操り、正規兵を
くだしたこと。
喜ぶ父を見て今度は部隊長である父親に挑み、
そして勝ってしまった。
以来その後ずっと続くようになった父親のさげすむような瞳。
父親の笑顔がみたくてがんばっただけなのに。
艦内でまごうことなきエースになったとき、父親は
褒めてくれなかった。
帰還後、そうまでして力を誇示したいのかと責められ殴られ、
蹴られたこと。
掛け違えてしまったボタン。
そんな哀しい夢の繰り返し。
ルシーダちゃんはずっと闘ってきたんだ・・・。
でももう大丈夫、あたしがいるから。
涙がつたう。
夜明け。
また新しい一日がはじまる。
彼女にも新しい一日は訪れるんだろうか。
お父様は端的に話した。
「昨晩、哨戒艇が行方不明になった。おそらくは連中の
仕業だろう。
おおよその潜伏空域が判明した。これから先遣艦隊が
出撃するそうだ。」
「安心して良い。わたしは残るから。
フィールも彼女の側にいてあげなさい。」
「お父様、ありがとう。」
「あ、あとイリーガルだがな、念のためジュリアが
いま点検整備している。」
「ルシーダちゃんの機体を?」
「討伐艦隊が出ると宮殿ががら空きになるからな。
戦力になるならそれにこした
コトはないっていうことさ。
あれにもアリスを搭載すれば戦力になる。」
だが、先遣艦隊が帰ってくる事はなかった。
「敵影ヲ見ユ。我、攻撃ニ移ル」の信号を
最後に音信が途絶したのだ。
先遣艦隊はレスティアの旗艦バルディッシュを
中核とするクリミア、ロンデニオンの
混成艦隊でアリステアシステムを積んで行動可能に
なったクリミアの新型、エルダー5機と
ロンデニオンのジルベール3機を積載していたはずだが、
飛行型機動ユニットの運用実績のある空賊と
対AK戦の実戦経験のない討伐艦隊には大きな差があったと
いう事かもしれない。
結局、レスティアに残った艦は哨戒任務から
戻ったばかりの戦艦ヴァーミリオンと機関が不調で
ドック入りしていたために生き残ったブリッグ型高速艦、
サーベリオンだけになってしまった。
サーベリオンは統治国家の威厳を守るために結成された
空賊討伐という討伐艦隊に加わり損ねたおかげでいまこうして
ドックからでてきて最終儀装を施されている。
塞翁が馬、という格言があったらしいがこう言う状況が
まさしくそうなのだろう。
無論、残った艦、という事で言うならばレヴァードと
五機のリオンをヴァスティールから運んできたクリスタリアと
クライドも残ってはいるが、大きい方の艦、クリスタリアは
来航するときに交戦した爪あとが未だに残っていて
航行するのがやっとの状態だし、クライドは高速貨客船を
改装したものだから武装自体がない。
お父様のセンチネルは小型スループ艦だがサリス1機しか
搭載できないし、哨戒艦なので艦としての交戦能力は
期待できない。
結局、2隻とサリス、残った1機のリオン、そして鹵獲した
イリーガルだけでなんとかしなくてはならなくなったのだ。
残った艦のうち1隻、ヴァーミリオンが積載能力を持つ
戦艦だったということが
唯一の幸運なのかもしれない。
そしてあたしたちと眠ったままのルシーダちゃんを乗せて
第2次討伐艦隊として港をあとにすることになる。
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