第5章 城塞都市
「・・・ル、フィール、起きて」
遠くで声が聞こえる。
と、揺さぶられてお父様に起こされてることに気づく。
「あ・・・・おはようございます、お父様」
「うん、おはよう。もう間もなくレスティアに到着するよ。」
「え?もう?・・・ってもうこんな時間!?」
「あぁ。疲れてたみたいだね。気にするな。
それでフィール、船は定刻よりかなり遅れてるが間もなく
到着する。わたしはレスティアに船が着く前にサリスを
センチネルに戻してレスティアに向かわないとならないんだ。
サリスとエフィメラのことはいまのところ機密だからね。
レスティアの郊外のマリーナにセンチネルは停泊させてある。
ジュリアは手続きやらで助手が必要だろうから
すまないがジュリアと一緒にいてやってくれ。
合流できるまでにそう時間はかからないはずだ。」
眠い目をこすりながらうなづくあたし。
「はい、お父様。」
「じゃ、わたしは行くよ」
「お父様、お見送りするわ。」
「ありがとう。じゃあ一緒に甲板に行こう。」
ドアを開けると壁によりかかってジュリアスさんとローザさんが待っていた。
「おはよう、シルフィール。」
ぺこりとあたまをさげて挨拶を返すあたし。
「おはようございます、ジュリアスさん」
「行こうか。」
かつんかつんと靴音をたてながら通路を4人で歩く。
甲板へのドアをあけると強風が吹き込んできた。
ばたつくドアを押さえ、甲板に出る。
甲板にはレヴァードとフライトモードのサリスが昨晩のまま
駐機されていた。
手すり沿いにサリスに近づく。
「エフィ、ハッチを開けてくれ」
「承知しました、兄様」
サリスをコントロールする制御システム、エフィメラが応対し
コクピットへのハッチが音を立てて開いた。
「じゃ、レスティアでまた会おう」
お父様はあたしを抱き寄せるとあごに手をやり首をあげさせ、
髪の毛をよけておでこにキスをした。
あたしもお父様の首に手をまきつかせ、背伸びしてほっぺに
キスを返す。
「ジュリア、フィールのことを頼んだぞ。」
そういうとお父様はコクピットに乗り込んだ。
「あぁ、安心しろ。それにそれはお前が早く合流すれば
済む話しだ。早く行け」
「ごもっともなお話で。じゃ、後ほどまた会おう。
エフィメラ、リニアクラフト始動、テイクオフ」
「了解です。ハンガーロック解除、ハッチ閉めます。」
ふわり、とサリスの機体が浮き上がり、そのまま後方へ流れる。
甲板を離れ、船との差がどんどん広がっていく。
・・・と、集光セイルが展開し、オーバーブーストを点火した
サリスは一気にその差をつめ、甲板の上で完璧な
インメルマンターンを決めると船から急速に離れていった。
自治都市レスティア。
この地方を統べる中枢都市で、都市自体が城壁によって完全に
囲われてる一風変わった趣のある歴史ある都市だ。
本船を曳航するためのタグボートが近づき、舫をつながれる。
どうやら一般港ではなく軍港のほうに曳航されるようだ。
それもそうだろう、先ほどの交戦で本船はブリッジも格納庫も
ふっきっさらしでメンマストを失い、見る影もなくなっている。
それにレヴァードもある。
船は大桟橋を通り越し、ドックへと導かれた。
ドックに船体が収まると同時に船体を固定するアームが両舷から
せり出し、ものものしい音とともに船体が固定された。
ジブ(三角帆)とミズンセイル(後尾帆)だけでよくここまで
たどり着けたものだ。集光セイルも収納され、
ジェネレータの作動音が一瞬収まる。
船内の明かりも非常灯に切り替わる。
ほどなく、岸壁側からエネルギーバイパスがつながれ、
非常灯が消えて船内に明かりが戻った。
「シルフィールさん、レスティアは寒うございます。
このショールとオーバースカートをお召しくださいな」
「ありがとう、ローザさん。」
コートにも似たオーバースカートを着て、ショールを羽織る。
「シルフィール、ローザ、行こうか」
「はい、ジュリアスさん」
「イエス、マイロード。」
リビングを出て通路を通り、あたしたちはゲートへ向かった。
ゲートには何人もの衛兵がいた。
その中で一人科学者か錬金術師か、、、の格好をしたひとが
ジュリアスさんに近づき、話しかけてきた。
「ようこそ、レスティアへ。ずいぶんと激しい戦闘だったようで。
ご無事でなによりです、ジュリアス卿、それにローザ殿。」
「久しいな、ハロルド。元気そうだな。」
「ええ。卿、そちらのお嬢様は?」
「レディスの娘だ。私の姪ということになるな。
シルフィールという。
先ほどイリーガルと交戦したときにレヴァードに乗っていたのは
彼女だ。」
「なんと・・・。このかわいらしいお嬢さんが実戦経験を
お持ちとは」
「いや、実戦経験どころかAKの起動もはじめてだったはずだ。」
「素晴らしい。良いセンスをお持ちのようですな、
シルフィール嬢。申し遅れました、私、このレスティアで
ジュリアス卿と同じテーマ(研究)に携わっております、
ハロルド・ノイマンと申します。」
ちょこっとオーバースカートの裾をつまんでひろげ、
あたまを下げる。
「シルフィール・ファルク・シュナイザーです。
どうぞよろしく、ノイマンさん。
それからシルフィールと名指しで結構ですよ。」
「ではシルフィールさん、こちらもハロルドとお呼びください」
「はい」
「レヴァードにはカバーを掛けてくれ。
あぁ、それでかまわん。機体が見えなければそれでいい」
レヴァードを移送しようとしていた船員に声をかけ、
指示をするジュリアスさん。
「ハロルド、レヴァードは公開実験までどこで
保管されるんだい?」
「城内の特別格納庫です。格納庫まではここから
ブラインドロードを通り直接搬入されますから人目に
つくことはないはずです。
アリスシステムをインストールする予定のレスティアの
試作機3機のエルダーと当日交戦予定のクリミアと
ロンデニオンの機動ユニットもそこに格納されています。」
「ん?キャラミティの新型はどうした?まだ搬入されてないのか?」
「えぇ、まだ使節団が到着していません。
入港が遅れてるようです。」
船から降り、ハロルドさんについて歩いていくと
軍用車が一台見えてきた。
レヴァードはカミオンにクレーンでつり上げられている
ところだった。
「さぁ、ジュリアス卿、シルフィールさん、ローザ殿、
どうぞお乗りください。
城内までご案内いたします。生憎ただの軍用車ですが。」
そしてあたしたちは軍港をあとにした。
幌無しの四輪駆動車はドックを抜け、城へと向かう。
ドックから出ると外はあかね色に染まりつつあった。
そして背後のレスティア連峰から吹き下ろしてくる冷たい風。
「同じトランなのにずいぶんとヴァスティールとは違うわね。
いつもこんなに冷たい風が吹いてるんですか?」
「レスティアはトランでももっとも北部にある都市ですからね。
おまけにレスティア連峰を切り崩して作った城塞都市ですから
いつもこの時間になると万年雪のレスティア連峰から冷たい風が
吹き下ろしてくるんですよ。
まだこの時期ならそう気にすることはないですが
冬は厳しいですよ。
魔女の息吹と詠われてるぐらいですから。」
「・・・魔女の息吹ねぇ・・・雪女でもいるのかしら」
なにげなく口にでた言葉だったが、意外にもハロルドさんは
こう返してきた。
「このレスティア連峰の奥にある山脈、大蛇の背骨には
ウィングスが棲んでるって話しですからね、雪女がいたとしても
不思議じゃないかもしれませんね」
「ウィングス?」
聞き慣れない単語にオウム返しに問う。
「翼人の連中のことですよ。ご存じありませんか?
翼を持った自由に空を飛べる人のことです。」
「ハロルド、またその話しか?こいつはウィングスの連中を
研究の素体にしたがってるんだ。」
翼を持った人ねぇ・・・。ある程度の魔術で空は飛べる。
けど自分の翼で飛べるひとがいるなんて・・・。
「知らなかったなぁ・・・」
四輪駆動車は入り組んだ街を走り抜け、坂道をどんどん登り、
城門の前にさしかかった。
衛兵が近寄り、運転しているのがハロルドさんであることを
確認するとゲートを開けてくれた。
「いま宮殿に入りましたからもうすぐですよ」
「警備は結構厳重なのね」
「いまは今回の発表にあわせて卿とシルフィールさんを含めて
各国の要人が集まってますからね。
普段はフリーパスで宮殿に入れますよ」
「あはは、あたしも要人扱いなんだ」
「無論ですよ。さて、到着です。」
ロータリーに車を駐車する。
ハロルドさんがドアを開けてくれる。
あたしは軽くあたまをさげてから車から降りた。
車の荷台に積んでいたトランクを引っ張り出す。
「よいしょっと」
あたしとジュリアスさんが手荷物を降ろしたのを確認して、
「いいですか、それじゃ行きましょう。」
そういうと正面の大扉の前に歩き、カードをかざすと
宮殿への扉がひらいた。
宮殿のつくりは豪奢だったが、普段からお母様に会いに
ヴァスティールのセルティア城に訪れてるあたしからみれば
歴史の分だけ少々趣がある程度にしか目に映らなかった。
「さぁ、こちらです。」
ジュリアスさんは来たことがあるのか、
案内されるまでもなく宮殿の奥の方に歩いていく。
「今回はレディス卿も来られるということでしたので
二部屋用意させて頂きました。よろしかったでしょうか?」
「あぁ、それでかまわない。」
回廊を歩くこと数分。
ひとつの部屋の前でハロルドさんは立ち止まった
「今回はこちらとその隣の部屋になります。キーをどうぞ。」
キーを受け取り、ドアを開ける。
部屋の大きさはあたしの部屋と同じぐらいだったが、
バルコニーがあり、そこからは中庭と城下町が見える素敵な
お部屋だった。
「わぁ、、、、すごい、街が一望出来るのね」
「えぇ、レスティアでもっとも高い位置にあるのが
この宮殿ですから。
それにせっかくの滞在ですので良い部屋を用意させて頂きました。」
「ジュリアス卿、打ち合わせはは如何なさいますか?」
「レディスが来てからにしよう。」
あたしはよほど心配そうな顔をしてたらしい。
あたしの顔を見て、ジュリアスさんは言葉を継いだ。
「そう心配そうな顔をするな、シルフィール。
イリーガルと一度交戦しているんだ、お前も当然一緒だ。」
「あ、ありがとう、ジュリアスさん」
首をすくめるジュリアスさん。
・・・と、ハロルドさんはその様子を眺めると
「それではわたしは一度席を外すことにしましょうか。
レディス卿がいらしたら今後の打ち合わせをすることに
しましょう。それでは失礼します。」
そういうとハロルドさんは部屋を出て行った。
あたしは窓を開け、バルコニーに出た。
「ん〜、良い風。」
街の外縁より遠くを見ると丁度太陽が地平線に沈むところだった。
しばらくその景色に見とれる。
程なく夜のとばりが降り、街に灯りが無数に見えるようになった。
さしずめ外縁という湖に映った星の空。
「クシュン!」
太陽が沈んで一気に外気温が下がったようだ。
「レスティアの夜は冷えるぞ、風邪をひかないうちに部屋に戻れ。」
「はーい」
あたしは部屋に戻り、窓とカーテンを閉めた。
ジュリアスさんはライティングデスクに端末を乗せて
なにか作業をしていた。
「お仕事ですか?ジュリアスさん」
「仕込みだ。」
「晩ご飯まではまだ時間があるわよね、あたし、少し眠ります。」
「わかった。部屋を変わるか?」
「このままで横になるだけだから気を遣って頂かなくて
いいですよ、ジュリアスさん」
「そうか」
あたしは靴を脱いで大きなベッドにばふっと倒れ込んだ。
「お日様の香りがする・・・」
あたしはそのまま眠りについた。
それは不思議な夢だった。
父親になにかと文句を言われ、なぐられる。
涙をながすと蹴られる。
あたしはごめんなさいを繰り返す。
父親なのにお父様じゃない。
お父様とはまったく知らない別人、でも、でもどこかで
会った気が・・・。
・・・思い出せない。
父親が言う「〜〜〜ならば、私の娘ならばその己が役割を果たせ」と。
〜〜〜、なんていま言った?
聞き取れない。
でもうなずく。
あたしはよっぽどうなされていたらしい。
あのジュリアスさんが血相をかえてあたしのことを
起こしてたんだから。ローザさんも顔色が真っ青だ。
「・・ル、シルフィール?」
「あ・・・ジュリアスさん・・・」
「大丈夫か?かなりうなされてたようだが。」
「夢を・・・夢を見ていたの・・・。」
まだあたまがぼーっとしている
と、そこにノックする音が聞こえた。
「ジュリア、いるんだろ?開けてくれ」
「あぁ、今開けるちょっと待て。ローザ、頼む」
「イエス、マイロード」
ローザさんがドアをかちり、と開錠する。
お父様の声を聞いてやっと感情のスイッチが入った。
あたしはベッドから跳ね起きてドアをあけ、
ドアの前で立っていたお父様に抱きついた。
「おい、ちょっとフィール、どうした?」
「お父様、お父様・・・」
「涙?」
どうやらあたしは夢の中で泣いていたらしい。
そして呆然とベッドに腰掛けたままでいるジュリアスさん。
お父様のあたまの中で思考がつながったらしい
「ジュリア!おまえ、フィールに何をしたっ!」
いや、それ違うから・・・。
さすがのジュリアスさんも慌てる慌てる。
抜刀しかねない雰囲気。
あわててあたしがお父様を止める。
「お父様、待って、違うの、夢を見ていたの!ジュリアスさんは
うなされてたあたしを起こしてくれただけなの。」
「・・・・。」
あらためてあたしのことを抱きしめるお父様
「・・怒鳴られ損だな。」
「悪かった、悪かったよ、謝る、ジュリア。」
「普通の夢ではない、と思う。うなされてるシルフィールの
髪の毛が明滅していた。」
と、ジュリアスさん。
「身体が少し宙に浮いて、髪の毛がこう、ふわふわーと広がって
明滅しておりました。」
髪が明滅・・・ということは無意識に術を編んでいたってことか。
「刻の魔術が働いていたと言うことか?」
「私はヴェスタルじゃないからな、なんとも言えんが
そう言うことだと思う。」
そう、あたしと一番相性の良い力は刻なのだ。
それは多くの場合過去夢、予知夢として働く。
「フィール、どんな夢だったんだい?」
「とりあえず部屋に入れ、レディス。」
「あ、あぁ。」
ドアを閉め、鍵を掛ける。
「まず、過去夢ではないと思うの。まったく覚えがなかったし。
予知夢だと思うんだけど・・・内容がありえないのよ。」
「内容がありえない?」
「お父様じゃないのに知らない人が父親で、
殴られたり蹴り飛ばされたりするの。
で、ごめんなさいって謝るんだけどよけいになぐられるの。
そして「私の娘ならばその己が役割を果たせ」って言われるの
あたしじゃないあたしはそれに頷くの。
「己が役目を果たせ? 確認だけどわたしのもとに来る前の
話しではないんだね?」
「えぇ、セイダス父様ではなかったわ。それにレイリア母様は
ともかく、セイダス父様に暴行を受けたことはないわ。」
あたしはレディスお父様の養女。
だけど本当の父親に暴行を受けたことはない。
お父様はロッキングチェアにどさっと身を預ける。
「・・・とすると予知夢、か。」
「だが話しがかみ合わないな。とすると、自身のことではなく
誰か、近しいひとの未来を見た、と考えるべきだろうな。」
と、お父様。
「そんなことってありえるの?」
「あぁ、刻の魔術ならばありえない話しではないな。
実際のところ刻の魔術はその扱いの難しさ故他のベクトルと
違って解明されていないところがあまりに多い。
問題はそれが誰の夢・現世(うつしよ)だったかは
わからないところか」
「そうね・・・。」
「いずれにせよ、いまどうこうできることではない
ということだな。
こんなことがあった、とあたまの片隅に覚えているだけで
良いだろう」
そういうとジュリアスさんはまたライティングデスクに戻り、
端末を操作し始めた。
ローザさんはお父様が持ってきたトランクの整理をはじめた。
「・・・あたし、あの娘を助けてあげたい。
人生ってそんなに辛いことだけじゃないんだよって
伝えてあげたい」
お父様は身体をロッキングチェアに預けたまま、こう語った。
「ジュリアの言うとおりだ。もし、その夢がフィールに
関わることならばまた夢を、夢の続き見るだろう。
それまで待つしかないな」
「うん・・・。」
あたしは腰掛けたベッドから立ち上がり、
窓に近寄り、カーテンを少しだけあけて街の灯火を見つめた。
一体誰だったんだろう・・・。
部屋にジュリアスさんの端末のキータイプの音だけが鳴り響く。
こんこん
そこに、ドアがノックされた。
「ジュリアス卿、シルフィールさん、ディナーのお時間です」
ドア越しにハロルドさんの声が聞こえる。
ジュリアスさんは素早くキーを叩き、ディスクを取り出し、
端末をクローズドさせた。
ジュリアスさんが懐にディスクを入れるのを見てから
ドアの鍵を開けるお父様。
「久しいな、ハロルド。」
「あぁ、レディス卿。お久しゅうございます。いつお着きに?」
「ついさっきだよ。ディナーはわたしの分も用意して
くれてるんだろう?」
「ええ、夕刻にお着きになると聞いておりましたので。」
「ありがたい」
「では参りましょう」
あたしはお父様と手をつなぎ、ハロルドさんのあとに続く。
ジュリアスさんはローザさんと一緒に部屋を出ると
ドアの鍵をキーで閉め、後に続いた。
「それでは今後のスケジュールですが・・・」
豪勢なディナーのあと、部屋に戻ったあたしたちは
ハロルドさんからスケジュールを聞いていた。
明日は5機のAK・リオンのセットアップ。
損傷を受けたレヴァードも修理が必要だ。
既にクリミア、ロンデニオン、そしてヴァスティールからの
使節団は到着済みで格納庫に搬入済み。
ただ、キャラミティからの使節団の到着が遅れてるので
公開試験は明後日に延期、朝10時からということだそうな。
「・・・以上ですが、なにか気になる点は?」
「当日の警備体制はどうなっている?」
「宮殿を完全に閉鎖、現在外部との接触を絶っているのは
ご存じの通りです。各国の要人警護のため衛兵を平時の
3倍増しで警戒にあたっています。
レスティア宮殿の堅牢さはレディス卿のほうがご存じなのでは?」
「まぁな。・・・で、例の連中が来た場合はどうする?」
「現在レスティア軍港には旗艦バルディッシュを含む
5隻の飛行艦がコンディションオブイエローにて
待機しております。
また、各国からの使節団の艦艇がいることを考えれば
十分すぎる警備かと。」
「・・・わかった。とりあえずわたしは自由に動かせてもらうよ、
それはかまわないね?」
「ええ、それで結構ですレディス卿。」
「それでは失礼致します。私は詰め所におりますので
なにかがあれば遠慮無くご用命ください」
そう言うとハロルドさんはあたしたちの部屋から出て行った。
「・・・で、どう思う?ジュリア」
「完璧、完全ということはありえないな。確かに警備は厳重だ。
だが仮に内通者がいた場合、惨事は避けられない。
彼らはレスティア宮殿の堅牢さに自信を持ちすぎているように思う。」
「同感だ。問題はどのタイミングでしかけてくるか、だな。」
「公開実験中の強奪はリスクが大きすぎる。
しかけるなら機体が格納庫にあるときだろうな。
格納庫内の警備をアリスのセットアップ時から厳重にする
必要があるだろう」
「おそらくは明日。さて、わたしはもう寝ることにするよ。
ジュリアも部屋に戻って眠ったらどうだ?」
「まだ少しやり残していることがある。寝るのはもう少し後だな。
よし、部屋に戻るとしよう。」
「ジュリアスさん、ローザさんおやすみなさい」
「あぁ、おやすみシルフィール」
「おやすみなさいませ、シルフィールさん」
ジュリアスさんとローザさんは端末を持って隣の部屋に
戻っていった。
お父様が見送ってドアに鍵を閉める。
「フィール、今日のところは安心してぐっすりとおやすみ。」
そこで、あたしは思っていたことをお父様に告げた。
「あのね、お父様。あの夢、なにか関係があるように思うの。
出来るかわからないけど予知夢をもう一度見てみようと思うの。」
「フィール・・・。わかった、好きなようにやってごらん。
大丈夫、見守っていてあげるから。」
「お父様、ありがとう」
あたしはベッド横になり、銀の杖を手にすると魔法陣を
宙に描き、杖を胸に抱いた。
光に包まれ、髪が明滅する。
そしてあたしの意識はだんだんと遠のいていった。
蹴る、殴る、つかみかかる。
浴びされる罵声。
「今度がラストチャンスだとわかってるんだろうな?」
そしてまた蹴られる。ぶたれる。
あたしの口をついて出る言葉は「ごめんなさい」
その口ぶりにまた蹴られる、殴られる。
「〜〜〜は必ず絶対に手に入れなければならないモノなんだ」
えっ?いまなんて言った?
でも口から出る言葉は「ごめんなさい」
謝っているのに、こんなに謝ってるのに許してもらえない。
そこで意識が暗転した。
次の瞬間、あたしは空を飛んでいた。
星明かりとオーロラだけが雲海を、辺りを照らす。
そして見えてきたものは砲撃を受けて雲海に沈みゆく船と悠
然ときらめく大型艦の集光セイルだった・・・。
「フィール、フィール!」
気がつくとあたしはお父様の腕の中にいた。
カーテンの隙間から日の明かりが見えている。
「お父様・・・また見えたの・・。
間違いないわ、ただの夢じゃないわ。」
「あたし、やっぱり蹴られて殴られて・・・
でもごめんなさいしか言えなくて。
あ。あとあたし、夜の空を飛んでた。
砲撃を受けて沈んで行く船とそのそばに大型船の集光セイルが見えたの。
どこの所属の船かはわからないけど・・・。」
いつの間にか、ジュリアスさんも部屋に来ていた。
「夜の空を飛ぶか・・・・最後に見えたのが沈み行く船と
大型船の集光セイルというのも解せないが」
しかめっつらをするジュリアスさん
「でもあの娘は確かにどこかにいるの!」
「せめて船の所属や型がわかればなぁ・・・」
遠くに目をやるお父様。
「あ、お父様、ありがとう。もう平気よ?」
ベッドに降ろされるあたし。
ほどなく、ハロルドさんがやってきて、朝食を告げた。
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