そして続く明日の世界へと−・第4章

第4章 アーマーナイトと魔を断つ刃

ふと、目が覚めた。
目を開けると隣のベッドにローザさんが眠っている。
そっか、船の中なんだっけ。
ちゃんと布団の中に入り込み、また寝直そうとしたが、
さっきまでは全然気にならなかった船のジェネレータのうなりが
気になって眠れない。
その後もしばらく眠ろうともがいていたが、
ふと思いつき、がばっと起きあがり、ショールを肩に掛けると
ドアを開けて艦舷通路に出た。手すりを掴み、下をのぞき込む。
オーロラが雲海に舞い幻想的な雰囲気をかもしだしていた。
・・・と、キャビンのドアが開き、ジュリアスさんが出てきた。
「なんだ、シルフィール、まだ寝てなかったのか?」
「ちょっと寝たと思うんだけど、目が覚めちゃって。
いま何時頃?」
「3時半といったところかな。眠れないのか?」
「うん、ちょっと。・・・ねぇ、ジュリアスさん。
ジュリアスさんのことを否定する訳じゃないけど、
そのアリステアシステムって本当に必要なものだったの?
お父様のサリスにはエフィメラちゃんの想いが
全部つまってるじゃない。」

「・・・スターン(艦尾)にいこうか。ここは風が強い。」
そういうとジュリアスさんは艦尾にむかって艦舷通路を
あるいていく。
ショールとスカートのはためきをおさえながら追いかけるあたし。

彼の言うとおり、スターンのデッキは風がかなり弱かった。
「必要なものか?か。確かにな。
アリスはいずれサリスと双璧をなすAKの登場を促すだろう。
AKは戦争の道具だ。
そういう観点でみるのであればアリスは不要なのだろうな。
だが、アリスは機動ユニットのみならず、産業機器の
インターフェースとして世の中、このよどみきった世界を
動かす力がある。

私は科学者だ。自ら生み出したモノの末路を見守る責務がある。
そしてそれが誤った道へ進むのであればそれを正す義務がある。
それが魔を断つ刃、サリスであり、エフィメラだ。
だが、実際のところは弾圧におびえる幾万もの生粋の
サイバネティクスチャイルド達を光の当たる世界へと
導くにはその代替えとなるもの、アリスが必要だった、
ということかもしれんな。
・・・ふっ、こんなこといくら言っても世迷い言にしか
聞こえんかもしれないがね」

ジュリアスさんは少し悲しそうな顔をした。
視線をそらし、空を見る。
見渡す限りの雲海。上を向けばきらめくミズンマストのセイル。
再び雲海に目を向けたとき、雲と雲の間に「なにか」が見えた。
気のせい?
目をこすり同じところを見るがなにも見えない。
「どうした、シルフィール?」
「いえ、いま雲の合間になにかが見えたような・・・」
ジュリアスさんは血相を変え、壁にある非常ボタンを
ためらいなく押した。
鳴り響くサイレン。サーチライトが点灯し雲海を照らす。
『コンディションレッド発令。総員戦闘配備!』
次の瞬間、雲海から砲弾がうなりをあげてやってきた。
「やはり来たか!」
「ジュリアスさん、彼奴らは?」
「レスティアでの公開を阻もうとする輩、空賊だ。
アリスを隠密理に私利私欲に使おうと考えている奴らだ。
奴らの目的は私の持つディスク、そして恐らくはアリスを
積んだレヴァードだ。
この船を撃沈させたりはしないはずだ。」
「いまの攻撃は威嚇射撃ってこと?」
「いや、そんな生優しいことはやってこない。そう言う連中だ。
おそらくは船の機動力を奪って着底させて奪うつもりだろう。
ほら、くるぞ、伏せろっ!」

ドドドドォン

艦舷からの斉射だ。
クリスタリア号のデッキルーフの一部が吹き飛ぶ。
ばらばらと降り注ぐデッキルーフの破片からジュリアスさんが
マントでふせいでくれる。
「とりあえずブリッジに行くぞ!」
「はいっ!」
艦尾デッキから艦首に向かって艦舷通路を走る。

ゴクン、と足下でなにかが動く音がした。
立ち止まり、手すりから下をのぞき込むと格納されていた砲が、
レールキャノンがせり出していた。
『左舷斉射、目標、敵海賊船!総員、リコイルショックに備えよ!』
「シルフィール、手すりを両手でつかめ!吹き飛ばされるぞ!」
あわてて手すりを力一杯にぎり、両の足で踏ん張る。
『撃てっ!』

ドドドォン
反撃だ。
相手とは異なりこちらは容赦する必要がない。
艦舷に砲撃が突き刺さり光がはじけるのが見えた。
続けて二射。
壮絶な砲撃戦が始まる。

ドアが開き、ローザさんが危なげにやってくる。
「シルフィールさん、ご無事でしたか」
「ローザ、シルフィールを連れてキャビンの下層の待避所に
行け!わたしはブリッジに向かう!」
「イエス、マイロード。さぁ、シルフィールさん、こちらへ!」
艦舷通路をブリッジに向かって走るジュリアスさん。
第3射目。
続けて相手からの反撃。
だが、相手はこちらを生け捕りにしなければならないのだ。
致命傷を与えてはならない。
これなら!そう思ったとき、砲弾が船首のほうに直撃するのが
見えた。
ブリッジの方角だ。
「ジュリアスさまをの安否を確認しないとなりません」
「うん!」
うなづくが早いか、二人でバウ(艦首)に向かって艦舷通路を走る。
ブリッジは敵艦からの直撃を受けて酷いありさまだった。
荒れたブリッジの中で指揮をとっているのはジュリアスさんだった。
「ジュリアスさま!」
「ローザか!艦長がやられた!副長も出血が止まらない。ローザ、
副長の止血を頼む!」
「イエス、マイロード。」
壁に寄りかかって座り込んでいる副長に駆け寄り、エプロンを裂いて
包帯代わりに止血にかかるローザさん。
「砲撃準備!敵艦のセイルを狙え!」
砲撃で吹きぬけ状態になったブリッジから敵艦を望む。
斉射を知らせる赤色警告灯が点灯したことに気づき、
手近な手すりにしがみつきリコイルに備える。
クリスタリアからの砲撃が敵艦を襲う。
「やった!・・・え!?」
砲撃は確かに直撃した。
だが、それとは別に敵艦の艦尾が展開していくのが見えた。
そしてその中にいたのは。。。
「ジュリアスさん、あれ!」
食い入るようにみつめるジュリアスさん。
電子オペラグラスを取り出し展開した艦尾にいるモノをみつめる。
「リニアクラフトを搭載した機動ユニットだと!?
奴ら、正気か!?そんなもの制御できるわけがない!」
けれど正気なのだ。
展開した甲板がカタパルトになっていたらしく、
機動ユニットが甲板から射出される。
ほどなく集光セイルが展開し光が集まり、爆発的なフレア(威力)
を持って空中で軌道変更をしてジュリアスさんの声に反して
機動ユニットが宙を舞う。
砲撃をかわし、盾ではじき、ぐんぐん迫ってくる。
「チッ、やむを得ん、どういう絡繰りかはわからんがアレは危険だ。
シルフィール、格納庫のコンテナに入れ。
お前はサリスでの実戦経験を持っている。
アリスのサポートがあれば防戦ぐらいはできるはずだ。
本来ならわたしが乗り込む予定だったがいまここを
離れるわけにはいかない。
わたしの持つディスクとレヴァード、両方奪われるわけにはいかない。
もうすぐレディスが支援に来てくれるはずだ。
それまで持ちこたえさせろ!これがキーだ!行け、シルフィール!」
「はいっ!」
「ローザは副長を連れて待避所に!」
「いえ、マスター、ローザはマスターのお側におります。」
「・・・わかった。怪我人の手当てを頼む。」
「イエス、マイロード。」
あたしはキーを受け取り、船尾の格納庫に向かって走る。
そのとき、第2波がやってきた。
ぎゅぃぃんという独特の音。
間違いない、チェインショットだ。
どうやらセイルを壊して船の動力を奪うつもりらしい。
艦舷通路を走り、格納庫に向かう。
扉を開け、コンテナに駆け寄る。
電子ロックだ。
キーを差し込み、ロックを解除する。
そのとき、ズゥンという鈍い音が聞こえた。
おそらくはあの機動ユニットに取り付かれたのだろう。
船がどんどん高度を落としていくのがわかる。
時間はない。
機体をよじのぼり、コクピットに乗り込む。
ハッチを閉じ、起動シークェンスをはじめる。
HUDに表示される「AlisteaSystem Stand by Redy」の文字。
ジェネレータ始動が完了し、いつでも動けることを示している。
武器はこの格納庫にあるのかもしれないが、
どこにあるかはわからない。
機体に装備された武器、すなわちモーターカノンと
レイブレードだけが武器の全てだ。

ほどなく、HUDがイエローからレッドにかわり敵機が
迫ってきていることを示した。
ドォンという音ともに格納庫の屋根が崩れ落ちる。
「コンテナ発破っ!」
ドムっという音ともにコンテナを発破する。
そこに現れたのは先ほどの集光セイルを持つ先ほどの
機動ユニット。

「ザザッ・・・・そう、	やっぱり動けるの」
女の子の声をセンサーが拾ってくれた。
「ザザッ・・・・完全体である必要はない。
コクピットだけを回収しろ」
今度は男の声。
敵艦からの指示だろうか。
「・・・わかった」
了解を告げる女の子の声。
どこかで聞いたことがあるような・・・

次の瞬間、敵機の頭部アンテナが起きあがり、
モノアイが爛々と輝くと猛然とサーベルを構えて滑空してきた!
エマージェンシーコールに従い、紙一重でかわす。
だが、次の瞬間、横殴りの強い衝撃でレヴァードは
格納庫の壁まで吹き飛ばされた。
「パイルバンカー!?」
そう、かわした瞬間、左手のシールドに内蔵された
パイルバンカーをあてられたのだ。
アリスがシールドをかまえてくれたからいいようなものの、
そうでなかったら直撃だった。

「ザザッ・・・・やはり、早い」
モーターカノンで掃射するが、せまい格納庫でさえやすやすと
回避してみせる敵機。
直撃しそうな弾はきちんと盾で直撃を免れている。
こんなまるで流れるような動きを機動ユニットができるなんて!

敵機が動きを止め、サーベルを構える。
白兵戦をしかけてくるつもりか。
こちらもレイブレードの柄を脚部シールドより取り出し、構える。
レイブレードは長時間使用できない。
このレイブレードはジュリアスさんの考案した新兵器。
敵機は構えたレイブレードの柄をいぶかしげに見たあと、
リニアクラフトとスラスターの爆発的なフレアによって
一気に間合いを詰めた!
次の瞬間、あたしはレイブレードのスイッチを入れる。
柄にカバーがガシャンと降り、元の位置に戻ると同時に
カートリッジが排出される。
刹那、レイブレードを3重のマジックサーキットがとりまき、
ビームの刃が形成される。
みたこともない装備に一瞬だけ動きが鈍る!
その瞬間にあたしは敵機のサーベルを腕ごと切り裂いた。
返す太刀でさらに追撃をかけようとするが、
既に回避運動をとっていた敵機にわずかに届かない。
この動きはこのレヴァードと、AKと遜色ない。
なぜ機動ユニットごときが!?
「ツッ・・・・ザザッ」
距離を取り、パイルバンカーを構える敵機。
集光セイルを展開し、猛烈な勢いで近接戦闘をしかけてくる敵機。
「ザザッ・・これでっ!」
スラスターをふかしてバックステップをするレヴァード。
パイルバンカーはレヴァードの右肩のアーマーを吹き飛ばした。
アリスのサポートがなかったら右腕ごと持って行かれていたに
違いない。
「ザザッ・・・チッ!」

そのとき、通信HUDがポップアップし、懐かしい顔が映った。
「遅れてすまないっ!レヴァードのパイロット、無事か!?」
レヴァードのセンサーがサリスがすぐ近くにいることを
示している。
「お父様っ!」
「フィール!?レヴァードに乗っているのはフィールなのか?」
「ええ、いまこの子と同じように動くみたこともない機動ユニットと
交戦中よ」
「待ってろ、今行くっ!」

「ザザッ・・・敵の増援だ!機体の確保は!?」
「・・・まだ交戦中。・・・むしろ形勢は不利。」
「ザザッ・・・チッこの役立たずがっ!戻れ、ルシーダ!」
「・・・承知。」

「ルシーダ!?ルシーダちゃんなの?」
 通信回線をオンラインにして話しかける。
「なぜこんなことを!わかる?あたしよ、シルフィールよ!」
でも反応はない。
次の瞬間、フライトモードのサリスが格納庫に舞い降りると同時に
敵機の両肩をつかみ壁をにたたきつけ、そのまま壁をつきやぶった。
空中に放り出された形になった敵機いや、ルシーダちゃん。
「ッ!・・・新型!?」
だが、瞬時にセイルを広げ、体制を整えて反撃に出る。
背部のカバーが開き、ロケットランチャーがサリスに降り注ぐが、
サリスはAMBACK機動でそれをかわす。
だが、その動きに驚くお父様。
その一連の動作でショットライフルを構える。
「何だ、こいつはっ!」
「だめ!お父様、撃たないでっ!」
あたしの叫び声を聞いて発砲をとどまるサリス。

ルシーダはそのすきを狙ってパイルバンカーをかまえてサリスに
突撃する。サリスにシールドはない。
当たれば致命傷だ。
「・・・このままでは終わらせない」

「やめて、ルシーダちゃん!」

あたしの悲痛な叫びが届いたのか、それとももとより
そのつもりだったのか、フライトモードのサリスをかすめて
セイルを更に広げ、スラスターを全開にして
船から離れていく母船に帰投したのだった・・・・


格納庫は先ほどの戦闘で壁が吹き飛んで
吹きっさらしになっていた。
あたしはレヴァードをもとのコンテナのあった位置に戻し、
片膝をついた降着姿勢を取らせた。
ふと見上げると船員がサリスの着艦のために手旗信号を送っていた。
サリスはフライトモードのままふわりと着艦した。
コクピットハッチが開き、お父様が外套をひるがえして
甲板に降りるのが見えた。
あたしもハッチを開き、レヴァードから降りる。
と、お父様があたしのほうに駆けてきてくれた。
「フィール、無事だったか。なんとか間に合ったようだな。
もっともフィールの声に助けられたような気もするが。
なんなんだ、あの機体はアリスシステムが搭載されているわけでも
あるまいに。
ルシーダ、とか言ったか?あの機体のパイロットだろうな、
知り合いか?」
「ええ、ちょっと・・・。」
「パイルバンカーを機動性に天と地ほども差があるAKに
対して使うとはな。
しかし・・・よく防げたものだ」
お父様はへしゃげたレヴァードのシールドをみながら言った。
「アリスが反応してくれたの。でなきゃやられてたわ」
「想定していた通りの性能を発揮していたようだな。
アリスに助けられたか。無事でほんとに良かった。」
そういうとお父様はあたしのことを抱きしめてくれた。
「お父様も無事で良かった」
「あぁ、あのタイミングではパイルバンカーを
打ち込まれていても不思議はなかったからな。
ありがとう、フィール。しかしあの動き、気になるな・・・。
フィールはいつレヴァードに乗ったんだ?」
「敵の機動ユニットが発艦するのを見たあと。
ジュリアスさんに乗れって言われて。」
「すると初っぱなからあいつと交戦してたってことか?」
「ええ。あの機動ユニットの目的はレヴァードのコクピットの
回収って言ってたわ。
だから船に取り付いて、すぐに格納庫にやってきて・・・。」
と、そこにジュリアスさんとローザさんがやってきた。
二人も無事だったようだ。
「フィール、レディス、無事だったか」
「久しいなジュリア。あぁ、なんとか無事だったよ。
だがなんなんだ、あの機体は?」
「思い当たる節はないではないが、、、いや、現状での討論は
無意味だ。とにかく先ほどの戦闘データから洗い出しをしよう」
そういうとジュリアスさんはレヴァードのコクピットに
もぐり込んだ。
「少々狭いが我慢しろ、入れ。ローザはすまないが少し
待っていてくれ。
いや、此処は寒い。キャビンで待っていてくれ。」
「ジュリアス様のお側がわたくしの居場所でございます。」
「・・・好きにしろ。」
ジュリアスさんはシートに、お父様はシート右側に、
あたしは左側に乗り込んだ。
「アリステア、先ほどの戦闘データをリプレイしろ」
「了解しました。コンテナ発破時からでよろしいでしょうか?」
「あぁ、それでかまわない」

セイルを広げた敵機が真っ正面に映る。
「止めてくれ。敵機・・・イリーガルと呼ぶか。
リニアクラフトと集光セイルは当然としても・・・
見たことのないタイプの機体だな。レディス、見たことはあるか?」
しばらく静止モニターをながめたあと、お父様は
「いや、わたしも見たことはないな。おそらくはオリジナルだろう」
「オリジナルだとしてもリニアクラフトと集光セイルを
機動ユニットに持たせて空中戦をやらかすなど
正気の沙汰ではないな。」
「同感だ。だが、こいつはそれをこなしている。
アリスシステム抜きでだ。
アリス、静止解除。 この動き、とても機動ユニットとは思えん。
白兵戦をこんなにスムーズにこなすことができるなんて・・・
レヴァードと比べても遜色ない。」
「Yes、マスター」
お父様は一通りの動きを見た後、つぶやいた。
「こんなものを見るとエフィメラもアリスも無用に見えてくるな・・・。」
渋い顔をするジュリアスさん。
「ここ、サリスとすれ違いざまに構えたパイルバンカー、
何故撃たなかったんだ?
決定打になっただろうに。カートリッジが
足りなかった訳でもあるまい?」
お父様はアリスに向かって問いただす
「コクピット内の音声も再現できるか?」
「OK、マスター」

すれ違いになった瞬間、悲痛な声が流れる。
そう、あたしの声だ。
「ルシーダちゃん?・・・知り合いか?」
問うのはジュリアスさん。
「ルシーダちゃんとはエル・ディへの定期便で知り合った娘よ。
多分、同い年ぐらい。ううん、少し下かな?
すっごく無口な子なの。
ルシーダちゃんがほんとうにあの機体に乗っていたのかは
確かめようがないけど、
この界隈では珍しい名前だし、あたしの声を聞いて
攻撃を止めてくれたこと、その前に聞こえてる敵艦からの
指示の声、ルシーダちゃんを連れてた男の人の声に似てるのよ。」
思わずためいきをつくあたし。
「女の子・・・だと?しかもフィールと同じか年下?
確かにノイズに混じって女の子の声は聞こえるが・・・。」
ぽん、と手を打つとジュリアスさん。
「決まりだな。アリステア、ありがとうリプレイを
終了してくれて良い。」
そう言うとジュリアスさんはコクピットから甲板に飛び降りた。
それに続くあたしとお父様。
お父様はレヴァードのハッチを操作し、閉じる。
「話しの続きはキャビンでしよう。
幸い、レイブレードでイリーガルの腕は切断されている
不完全な状態だし、こちらの応戦で敵艦にも相応のダメージが
いっている。
このままレスティアまでは逃げ切れるだろう。」
レヴァードの固定を船員にまかせ、あたし達は船内の
キャビンに入った。
ローザさんが暖かい飲み物の準備を始める。
「コーヒーは飲むか?」
「コーヒーは・・・」
と、意見するお父様
「・・・レディスは飲まないのはわかってる。
シルフィール、飲むかね?」
「じゃあ、頂きます。」
お湯をコーヒーメーカーに注ぎ、マグカップを用意しながら
ジュリアスさんは話しを始めた。
ローザさんはお父様の為の紅茶の為にティーカップを温めている。

「イリーガルの件だが、・・・・・・そのルシーダとかいう娘、
サイバネティクスチャイルドと思ってまず間違いないだろう。
奴らに利用されてるのか、それとも自分の意志で
戦っているのかはわからんがね。」
「サイバネティクスチャイルドって、エフィメラ
ちゃんのことよね?」
「あぁ、あれは人為的に作られた存在だがね。
機動ユニットが尋常じゃない動きを出来て当然だ。
機体の個体性能差がなければサリスやレヴァードにも勝るとも
劣らない戦闘ができるはずだ。
今回は明らかな機体の性能差があった。
運が良かったと思うべきだろうな。
だが、いくらサイバネティクスチャイルドだとしてもはじめて
乗った機体、はじめての戦闘であそこまでの動きが出来るとは
思えない。相当な戦闘訓練をしているはずだ。飲め。」
マグカップをよこすジュリアスさん。
あたしはマグカップを両手で持って落胆のことばをもらした。
「そんな・・・・」
「・・・信じたくない気持ちもわかる。
だが、これは紛れもない事実だ。」
ローザさんが温めたティーカップに紅茶を注ぎ、
お父様に差し出す。
そしてお父様が言葉を継いだ。
「そして、このままあきらめてくれるなどということも
ないだろうな。」
「でもでも、仮にルシーダちゃんがSCだったとして、
それなら何故あたしたちを狙うの?
あれだけの動きを出来る機動ユニットがいるならそれで
十分なんじゃ・・・」
「それの答えは簡単だな。単に戦力の増強を図りたいか、
彼女が奴らにとって扱いにくいかのどちらかだろう」
と、お父様。
「アリスシステムが手に入ればそれだけで1機だけ、
しかも子供に頼るしかないそんな状況を一変させることができる。
はじめて乗ったフィールでさえあれだけの交戦ができたんだ。
それはフィール、君が一番わかるだろう?
故に確実にアリスシステムを手に入れたければ全力で
かかってきたはずだ。
なのにイリーガル一機、しかもルシーダの乗る機体だけを
よこしたということは奴らもルシーダの他に
サイバネティクスチャイルドをかかえていないのだろう。
情報漏洩は常とはいえ、あれだけの機動ユニットが作れるんだ。
量産できればそれだけで一国に対抗しうる戦力になる。
やっかいな連中に目をつけられたもんだ。」

「そもそも奴らは何者なんだ?レディス、心当たりは?」
「それをわたしに振るか?前にも言ったろ、確かにわたしは
レスティアにいるが、皆が思ってるほど情勢に詳しい訳
じゃないんだ。残念ながらね。」
「ふむ・・・レディス、例の件以来襲撃を受けたことは?」
「いや、ない。サリスとエフィメラの存在を知るものは少ない。
ジュリアの指示通り、サリスはどこからともなく現れる
魔を断つ刃として「セイギノミカタ」を演じているよ。
だが、レヴァードとアリスはレスティア連邦評議会がやっきに
なってるものだからな。
奴らがこの船を襲ったのはむしろ必然といえるんじゃないかな」
「かもしれんな。計画的襲撃といったところか」
「だから護衛をわたしにあらかじめ頼んでいたのだろう?
ジュリア」
ククッと声を抑えて笑うジュリアスさん
「察しが良いな、レディス。」
「・・・この古狐め。さて、それじゃレスティア到着まで
しばらく休むとするか。部屋割りはどうなっている?」
あう・・・。
「あたし、ローザさんと相部屋だったの。」
「わかってる、久々に会えたんだ、同じ部屋で眠るといいさ。
ローザはわたしの部屋に。私はここで眠るとしよう。」
「ジュリア、わかってるじゃないか」
「そこまで無粋じゃないさ」
「ジュリアス様!わたくしがキャビンで眠ります。
ジュリアス様はお部屋で。わたくしめは使用人にございますから。」
「いや、これは譲れないな」
どっちが部屋のベッドで眠るか、もめてるらしい。
お父様はそれをみると首をすくめ、キャビンのドアに手を掛けた。
「ローザ、紅茶、ごちそうさま。じゃあな、ジュリア。」
「いえ、どういたしまして。あ、ジュリアス様その毛布は・・・」
「お休みなさいジュリアスさん、ローザさん。」
「シルフィール。それじゃ、良き夜を。」
「ジュリアスさん、おやすみなさい。それからありがとう」
ジュリアスさんはほんの少しだけ笑みを浮かべ、
またローザさんとの毛布の争奪戦をはじめた。
そう言い残すとあたしたちはリビングを出た。
そこでお父様は立ち止まって振り返り、あたしに手をさしのべる。
その手をぎゅっとにぎってお父様の胸の中に飛び込む。
「がんばったな、フィール。さぁ、部屋に行こう」
お父様はあたしのことをぎゅっと抱きしめてくれたあと、
手を引いて艦舷通路を歩いた。
「部屋はどこだい?案内してくれるか?」
「ええ。こっちよ。」
あたしたちも部屋に入る。
お父様はローザさんの使っていたベッドに腰掛けた。
「おいで、フィール。」
呼ばれてお父様のよこにちょこんと座るあたし。
「お父様、ルシーダちゃん・・・やっぱりまた来るのかな」
あたしの髪の毛をなでつけながら答えるお父様
「あぁ、来るだろうな。それが彼女にとっての本意か
不本意かはわからんが。」
「不本意・・・だと思う。だって、そうじゃなきゃ可哀想だもの」
「助けたい、と思ってるんだね、フィールは」
「・・・うん。」
「そうか。ならば頑張らないとな。」
「・・・・・ええ。」
彼女を助ける。手前勝手なことかもしれないし単なるおせっかい
かもしれない。
でも・・・・彼女は従わされてるだけだ、何故かそういう
確信があった。
必ず救ってみせる。あたしは自分のベッドでそう誓いを立てて
・・・いつしか深い眠りについていた。
かくして、嵐のような一日は過ぎていった。


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そして続く明日の世界へと−(2008/01/20)
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