そして続く明日の世界へと−・第3章

第3章 ジュリアス・クレスト・ディス・ログナー・ログナーとローザ・ハルミトン

もう日は暮れ、船のデッキには電飾がきらめいている。

船内アナウンスだ。
「本船はまもなくヴァスティールに到着致します。
着岸時に船体が揺れることがございますのでお手数ですが
安全のため、ご着席の上シートベルトの着用をお願い致します。」
「お嬢ちゃん、もうじきだから船内にはいっとくれ」
「はーい」
あたしは船員さんに返事をし、船内に入り席に座ると
シートベルトを締めた。

からんからんからん
『メイントプスル、クリュー!(帆耳を引き上げる)セイル畳め』
『アンカー、打て』
桟橋が近づいてくる。
いや、船のほうが近づいてるんだけど。
左右の桟橋からアームが延び、船体が固定される。


シートベルト着用サインが消え、アナウンスが流れる
「ご乗船ありがとうございました。大変長らく
お待たせいたしました。
ヴァスティール、ヴァスティールでございます。
またのご利用をお待ち申し上げます。」
あたしはルシーダちゃんにおわかれの挨拶を
しようとしたんだけど例の男の人にひきずられるように
前部のデッキからでていってしまった。
少し悲しい。
「はぁ。」
ためいきをついたあと、船室から出てタラップから
桟橋に降りるとそこには
黒い長髪に黒いマントが特徴的な長身でいて痩身の男性、
ジュリアスさんが待っていてくれた。
「シルフィール、元気にしてたか?」
そういうとジュリアスさんはあたしの手を取った。
「ええ、でも突然で驚いたわ」
「たまにはこういうのも一興だろう。
さぁ、まずは支度だ。城へ行こう。」
あたしはトランクをごろごろとひきながらジュリアスさんと
手をつなぎながら
城へと歩いていった。
桟橋界隈は飛装帆船の定期便が到着したこともあって
かなりの賑わいを見せていた。
ずらりと並んだ露天商。
活気づく町並み。

このヴァスティールはこの地域・サウスエリアでは
一番大きな自治都市だ。
港は城、セルティア城の東側に寄り添うように築かれている。
この城の東壁の桟橋界隈から城下街はもっともにぎわう場所だ。
そしてこの城、この街を統治するのがわたしのおばあさまに
あたるクレスト・エルフィア・トランシア。
このレスティア連邦にいくつもある自治都市。
この自治都市の統治者が集まり、レスティア連邦評議会を
成している。その連邦評議会の中の良心と謳われるおばあさま。
その発言力は並々ならぬものがある。
三年ほど前、当時元帥だったドゥガルという人物が
トランシア妃を拉致し、一時期政権を握って恐怖政治を
行っていたこともあったが、お父様や騎士達の活躍により
政権を奪回。以後は従来通りトランシア妃がこの地を
統治している。
彼、ドゥガルが遺したのはヴァスティール郊外に
鎮座する戦艦テンペストの残骸だけ。


あたしたちは城門をくぐるとまずジュリアスさんの
住む離れに向かった。
おばさまへの挨拶は後ほど、ということらしい。
離れの扉をあけるとそこには錬金術のマジックサーキットや
幾台ものコンピュータが
鎮座する研究室になっていた。
隅っこにつつましやかな簡易ベッドがある。
小さいながらもキッチンもあることから
彼がここで生活をしているのは間違いなさそうだ。
機械に埋もれての生活。
アルケミスト−錬金術師−の考えることは研究第一、らしい。
ジュリアスさんはあたしにベッドに腰掛けるよう指示し、
キッチンに向かった。
「飲み物はコーヒーでいいか?」
「ええ、お父様みたいに紅茶じゃなきゃダメだ、
なんて好き嫌いはしないわ。」
「結構。時間が惜しい。単刀直入に話すことにしよう。
例の一件以来、わたしがなんの研究をしていたかは知っているか?」
「エフィメラシステムの汎用化ってことまでかしら。合ってる?」
「十分だ。そう、それがようやっと完成にこぎ着けた。
アリステアシステムという。今回はそのアリステアシステム、
通称でアリスと呼んでるが・・・これのの各国首脳を集めた
公開実験をレスティアで行うことになってね。
レディスはこれの警備にあたることになった。
わたしも開発担当者として当然顔を出すことになる。
まぁ、そういうことだ。」

例の一件とはドゥガル元帥からトランシア妃や
ジュリアスさんを救出した事件のことだ。そのさなか、
コンピュータと直接コンタクトをとることができる人、
サイバネティクスチャイルドを実装し、
アーマーナイト・通称AKというまったく新しい機動ユニットが
誕生し、世界最大の戦艦・テンペストを撃沈せしめた。
そのとき実装されたサイバネティクスチャイルドがエフィメラだ。
反乱の折に命を落としたジュリアスさん、お父様の妹、
エフィメラさんは錬金術によって絶命後、一時的にこの世に顕現。
アーマーナイト・サリスにその身を宿した。

「今回はアリス搭載を前提として開発した第三世代型機動ユニット、
いやアーマーナイト、レヴァード一機とリオン5機、それに
アリスシステムのマスターシステムを特務艦で中枢都市
レスティアまで輸送する。質問は?」

「特務艦?貨客船じゃなくて?」
「アリスの開発完了の報が裏ルートで既に流れているらしくてね。
不穏な動きがある。航海中、襲撃を想定して6機のうち5機を除いては
アーマーナイトにはアリスのインストールもしていない。」
「その5機のアーマーナイトはまっさらな状態ってこと?」
「そういうことだ。アリスのインストールはレスティアに搬入後、
格納庫内で行う。」
「一機だけセットアップが完了している理由は?」
「空賊の迎撃用だ。今回の特務艦は船足は速いが武装の面では
難があるからな。」
あたしはマグカップに残ったコーヒーをすすり、今後の予定に
ついて尋ねた。
「出航は何時?おばあさまに挨拶をしていった方がいいのかしら?」
「そうだな、しばらく母上とヴェスタル・ラ・ギルドだけに
なるからな。」
ジュリアスさんはそういうと机の上にあるガラス製でできた
呼び鈴を鳴らした。
ほどなく、メイドさんがやってきた。
「ローザか。君一人では無理だな、あと二人ぐらい
呼んできてくれ。
わたしとシルフィールの荷物を特務艦の船室に運び込んで
おいてほしい。夕餉の支度も頼む。
わたしとシルフィールは母上に挨拶をしてから船に向かう。
それからここの戸締まりも頼む。それからローザ、
君はわたしたちと一緒に同行してもらえるとありがたい。」
「承知致しました。マイロード。」
ローザと呼ばれたメイドさんはスカートをつまみ、
さっと開きながら会釈をし、荷物の数を確認すると
部屋をあとにした。
「では母上に挨拶をしに行くとしよう。」
ジュリアスさんはマグカップをシンクに置くとドアに手を掛けた。
あたしもシンクにマグカップを置いてジュリアスさんに
続いて外に出た。

ジュリアスさんは離れをあとにすると城内にはいり、
まっすぐ4階にあるトランシア妃の部屋を目指した。
途中、幾人もの警備兵がいたが、ジュリアスさんの顔をみると
最敬礼をして声を掛けることもなく通してくれた。
彼曰く、おばあさまは今の時間帯、公務を終えて
自室にいるのだそうだ。

少々大きな扉をノックする。
「母上、シルフィールを連れて参りました」
ほどなく、凛としたよく通る声がドア越しに聞こえた。
「入りなさい」
ジュリアスさんは一言、
「失礼します。」
というとドアを開け、部屋に入った。
トランシア妃はライティングデスクで手紙らしきものを
書いていた。
「これからレスティアに出立?」
「ええ、その予定です。今回はシルフィールを連れて行きます。」
あたしの名前が出たところで書き物をやめ、あたしの方を向いた。
片膝をつき、こうべをさげるあたし。
「お久しぶりです、おばあさま。」
おばさまは椅子から立ち上がり、あたしの手を取った。
「あなたはそんなことしなくていいのよ。セフィーから話しは
聞いてます。
いまは週に一度ヴェスタル・ラ・ギルドでヴェスタルの修行を
積んでるそうね。」
あたしはおばあさまに手を引かれて立ち上がり、答えた。
「はい、セフィーさんにはいつもお世話をおかけしています。」
「素晴らしい素養をお持ちだとセフィーは言っていたわ。
でもあなたの祖母としては悲しいわ、毎週来ているというのに
会いに来てくれないなんて。」
「え?あ・・・申し訳ありません!」
おもいきり、勢いよく頭を下げる。
「・・・母上も意地が悪い。シルフィールの事情だって
ご存じなのでは?」
「可愛い女の子をみるとね、いじりたくなるのよ。」
「母上の悪い癖だ。シルフィール、頭を下げる必要なんてない」
恐る恐る、顔をあげる。
「レディスに会うのでしょう?シルフィール。」
「え、あ・・・はい。」
「いまレディスへの手紙を書いていたところなの。
もう書き上がっているからちょっと待ってもらえるかしら?」
あたしはジュリアスさんの顔をちらりと見る。
ジュリアスさんは仕方ないというふうにお手上げの仕草をした。
「はい。」
おばさまは椅子に再び腰掛けると引き出しから封筒を取り出すと、
お父様への手紙を折り、封筒に入れた。
そして燭台から蝋燭の蝋を封筒に垂らし、封緘をした。
燭台を元に戻し、おばさまは手紙を差し出した。
「シルフィール、これをあなたの大事なお父さんに渡して頂戴。」
あたしは机に近寄り、腰掛けたおばさまから封筒を受け取り、
ショルダーバッグの中に入れた。
「母上、ローザも連れて行きますがよろしいですね?」
「ローザは貴方のお気に入りですものね、いいわ。
ローザが居ない間はミーナに頼むことにするわ」
「お気に入り・・・またそういうお戯れを。まぁいいです、
それではレスティアに連れて行きますからね」
「ええ、かまわないわ。連れて行きなさい。
あら。残念だけどこの時間だと一緒に夕餉をする余裕はなさそうね。
さ、時間がないのでしょう?行きなさい」
「話が早くて助かる。それでは母上、失礼させてもらいます。」
そういうとジュリアスさんは軽く会釈をし、ドアに向かった。
「おばあさま、お手紙、確かにお預かりしました。
お父様に必ず渡させてもらいます。」
「よろしく頼んだわよ、シルフィール。
それとあまり気負わないようにね。あなたはレディスに
よく似て何事にもあまりにもまじめに取り組みすぎるから」
おばあさまはあたしの両手をとり、少し心配そうな表情をした。
「はい、お気遣いありがとうございます。
それでは行って参ります。」
あたしはきゅっと手を握り替えし、あたまをさげ、
ジュリアスさんに続いておばさまの私室をあとにした。

「シルフィール、少し急ごう。」
「はい。」
あたしたちは城の東門をくぐり、波止場に向かった。
定期便が到着したところだったのか、波止場は人で
あふれかえっていた。
人混みをかき分け、ジュリアスさんに手を引かれながら
波止場の軍用エリアに向かう。
軍港には大きなバーケンティン型とバーク型の
飛装帆船が停泊していた。
バーケンティンのスターン(艦尾)にはクリスタリアと
銘が打ってあった。
バーク型の名前はリベルター。
クリスタリアの舷門に先ほど別邸で会ったメイドさんが
立っている。
「マイロード、お荷物は船室にすべて運び込んであります。」
「ありがとうローザ。わたしはブリッジへ行く。
すまないがシルフィールをキャビンに案内して、二人で待機
していてくれ。出航したらわたしもキャビンに行く。」
「イエス、マイロード。それではシルフィール様、こちらへ。」
「はい。あ、あとあたしのことはシルフィールでいいですよ、
ローザさん。」
「ですが・・・」
「とにかく、あたしに様づけはダメ。」
「・・・ではシルフィールさん、では如何でしょうか?」
「仕方ないか。・・・妥協したげる」
「ありがとうございます、シルフィール様・・・
じゃなくて、さん」
苦笑しながら艦舷通路を艦尾方向に向かって一緒に歩く
あたしとローザさん。
ほどなく、船員の掛け声がした。
『キャプスタンに伝達、「アップ・アンカー(錨揚げ)」』
キャプスタンが回り始め、錨がまき上がった。
集光セイルが展開し、光の粒子が集まる。
低く、うなりをあげはじめるジェネレータ。
『ヘッドスル(艦首帆)展開よろし!操帆手、
各トプスル(中横帆)及びコース(大横帆)展開せよ!』
『艦首回頭、ハード・ア・ラーボード!(面舵いっぱい)』
『ハード・ア・ラーボード!』
ふわりという浮遊感のあと船体が若干傾く。

同じ桟橋に係留されていたバーク型の飛装帆船が
後に続くのが見えた。
「ローザさん、今回は二隻でレスティアに行くの?
なにか聞いてる?」
「クリスタリア号とリベルター号の二隻で向かうと聞いています。
アーマーナイトを6機も搭載できる艦はこのヴァスティールには
ありませんから。」
「そっかー。」
「キャビンはこちらです。もう少しご覧になられますか?」
「ん、、、港内ブイを通過するまで観ててもいいかな?」
「では寒うございますからショールをお持ち致します。
少々お待ちくださいまし。」
「ありがとう。」

風力は2といったところか。
飛装帆船の航行には問題なさそうだ。

クリタリア号は既に回頭を終え、港内ブイを通過しようとしている。
ここからは砂漠の海、砂海の空を飛んでいくことになる。
各マストにセイルが展開され、徐々に速度が増していく。
・・・と、キャビンのいくつか前の船室からショールを抱えた
ローザさんがやってきた。
「シルフィールさん、どうぞ、お召しください」
「ありがとう、ローザさん」
風でたなびくショールをうけとり、身につける。
集光セイルが全て展帆されたのか、速度と高度が次第に
上がっていくのがわかる。
後ろを振り返ると城の東側の港を彩る街の灯火がきらきらと
輝いている。
艦舷から下をのぞき込むともう城下町と砂漠の境界に達していた。
この先は砂漠がずっと続くことになる。
気温もがくんと下がる。
「せっかくショールをもってきてくれたのになんだけど、、、
部屋にはいりましょうか、ローザさん」
「はい、シルフィールさん」
ローザさんがキャビンのドアを開けてくれる。
中に入り、手近なソファーに腰掛け、ショールをたたむ。
「夕餉の支度もできていますが冷えきったからだを暖めるほうが
先ですね。今、お飲み物を用意致します。
コーヒーでよろしいですか?それとも紅茶になさいますか?」
「ん、、、ミルクはあるかな、あるならミルクティで。」
「承知しました。少々お待ちください。」
ローザさんがキャビンの端にある簡易キッチンで湯をわかしつつ、
ティーカップを用意する。
「ローザさんっておばさまのお側付きよね?
同行しちゃってよかったの?」
「ええ、大丈夫です。ミーナがおりますから。
それにトランシア妃のお側付きといってもアリステア様が
いなくなられてからはジュリアス様の側にいることが多う
ございましたから。」
ローザさんは紅茶がはいったティーカップをテーブルにならべ、
ミルクポットからティーカップにミルクを注いだ。
「どうぞ、シルフィールさん」
「ありがとう。いただくわ」
と、そこにジュリアスさんがキャビンにやってきた。
「デッキはずいぶんと冷えるな。」
「ジュリアス様、いまシルフィールさんとミルクティを
飲んでいたところです。
同じものであればすぐに用意できますが如何なさいますか?」
「同じもので良い。」
「かしこまりました。マイロード。」
ジュリアスさんが手にしていたアタッシュケースを床に置き、
ソファーにもたれかかった。
「順調にいけば明日の夕方までにはレスティアに到着するそうだ。
ローザ、すまないが飲み物の準備が終わったら夕餉の支度を頼む。」
「かしこまりました。」
「ジュリアスさんは何度もレスティアに行ってるんですよね。
ローザさんは?」
ティーカップをローザさんはテーブルに置き、
「ジュリアス様にお供して何度か滞在したことがございます」
「どんなところなの?とっても大きな城塞都市ってことぐらい
しか知らないの。」
「とても歴史ある風光明媚でヴァスティールとはまた違った
趣のある良い街ですよ。」
「ジュリアスさん、今回の滞在はどこに?ホテルかどこか?」
ジュリアスさんはティーカップを傾けながら答えてくれた。
「いや、今回はメインゲスト扱いだからな。レスティア王宮に
滞在することになる。」
「れ、レスティアの王宮!?」
「なに、ヴァスティールのセルティア城とさほどかわらんさ。」
「そ、そっか。。。セルティア城だって王宮なのよね、、、
通ってるからそんなの忘れてたけど。」
「まぁそういうことだ。」
準備を前もってしていたのか、ローザさんがテーブルに
夕餉の仕度を始めた。
「ありがとう、ローザさん。」
「いえいえ。これがわたくしの仕事にございますから。」
そして数分後、準備を終えたローザさんが末席に腰掛けた。
「ではいただくとしよう」
パンにスープ、サラダにローストした鳥。
「もう少し時間を頂ければもっときちんとしたものを
お出し出来たのですが・・」
「かまわんよ。」
「十分ですよ、ローザさん」

低くジェネレータの音が響く中、食事はすすむ。
「そうそう、シルフィール、部屋だがな、ローザと
相部屋でがまんしてくれ。」
「イエス、マイロード。でもお側付きが一緒で
よろしいのでしょうか」
「あたしは歓迎よ、ローザさん」
「左様でございますか。かしこまりました。」
「夜も遅い。すまないがローザ、床の準備を頼む。」
「では準備を致しますので失礼します。」
ローザさんは食事を早々に済ませると自分の食器をシンクで洗い、
食器乾燥機のフックにひっかけるとキャビンをあとにした。

「ローザさんって素敵な女性ね。」
食器をまとめて寄せてできたスペースにアタッシュケースをのせ、
中にはいっていたノート型のパソコンを取り出していた
ジュリアスさんはうわのそらと言う感じであいづちをうった。
「あぁ、そうだな」
「ふぅ・・・。」
あたしはため息をつくと立ち上がり、ジュリアスさんの後ろに
立ち、ディスプレイをのぞき込んだ。
「ん、シルフィール、興味あるのか?」
「あたしはヴェスタルよ。見習いだけど。
興味なんてあるわけないじゃない。
気になってるのはジュリアスさんとローザさんとの関係。」
ジュリアスさんはため息をつくとひとこと答えた。
「メイドと雇い主、それだけだ」
「ちぇっ、つまんないの。お似合いのカップルだと
思うんだけどな。」
「くすくす、まぁ。そんな風に思われていたんですか?」
ちょうど支度の済ませたローザさんが入ってきた。
両手で口元を隠し、楽しそうにくすくすと笑ってる。
「ねぇねぇ、ローザさん、実際のところどうなんですか?」
「そうですねぇ、なんてお答えしましょうか、ジュリアス様?」
「ローザ!・・・・ふぅ。」
深くため息をつくジュリアスさん。
「くすくす、ベッドの準備ができましたよ、シルフィールさん。」
「はーい。それじゃジュリアスさん、お休みなさい。
えっと、ローザさんは?」
「勿論ご一緒しますよ。さ、此方の部屋です。参りましょう。」
そういうとジュリアスさんに向かってスカートのプリーツを
つまんで軽く持ち上げ、会釈をしてローザさんはキャビンを
後にした。
艦舷通路に出ると風がながれ、ローザさんのスカートがはためき、
彼女は軽くスカートを押さえつけた。
わたしのセミロングのスカートもはためく。
「丈の長いスカートだと大変ね」
「慣れればどうということはありませんよ。それにこれが
わたくしの正装ですから。」
「そんなもんかなぁ・・・」
わたしたちにあてがわれた部屋はキャビンから
少し離れたところにあった。
「此方です」
そういうとローザさんがドアをあけて押さえてくれる。
すばやく身を部屋にはいりこませる。
続いてローザさんが部屋に入った。
燭台に明かりがついている。
特務艦の一室ながら床には毛足の長いカーペットが敷かれており、
壁もきちんと落ち着いた調子の壁紙が貼ってあった。
ベッドも据え付けのものではない。
おそらくはゲスト用の部屋なのだろう。
ベッドは左右に一つづつ。
あたしは右側にのベッドに腰掛けた。
ちょうど真向かいにローザさんが腰掛ける。
「ローザさんってお側付きになってから長いのよね?」
「はい、そうですね。かれこれ8年ぐらいになりますでしょうか。
長い、と言えば長いのかもしれませんね。」
「8年かぁ・・・。」
ばたっとそのままベッドに倒れ込む。
「今はジュリアスさんのお側付きなのよね?
マイロードっていってたものね。」
「はい、3年ほど前・・・動乱のあとからですね。」
「ねぇジュリアスさんってどんなひと?」
「そうですね、聡明でお優しくて、自分に厳しくて・・・
そうですねレディス様とうり二つな御方ですよ。
非社交的か社交的かの違いはありますけれど。」
「お父様とうり二つかぁ・・・あたし、なんとなく
ジュリアスさんって苦手なのよね。
あの人の前だとなんでも見透かされてるような気持ちになるの。」
「くすくす・・あの方はとても鋭うございますから。」
「早くお父様に・・・会いたい・・・な・・・・すぅすぅ」
「シルフィールさん?・・・まぁ、寝てしまわれたんですね。
このままだと風邪をひかれますよ。」
ローザさんはあたしの靴を脱がし、布団をかけて微笑んだ。
「おやすみなさい、シルフィールさん」


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