そして続く明日の世界へと−・第2章

第2章 ブロンドの少女

ぼーん。ぼーん、ぼーん・・・・
柱時計が3時を告げる。
あたしは席を立ち、柱時計の下までてくてくと歩いた。
柱時計から垂れ下がる鎖をつかみ、引いた。
じーっ。
何度も引く。
じーっ。じーっ。じーっ。
今時、こんな骨董品の時計を使ってるところなんて
この店ぐらいのものだろうに。
そう毎日この3時の鐘のあと、柱時計の鎖を引いて
ぜんまいを巻きなおすのもあたしの大事な日課のひとつ。
・・・というか、ほとんどこれだけがお仕事。
砂漠に囲まれたエルディで日中外を出歩く酔狂なひとは
なかなかいない。
でも今日はあのときと同じようにいつもと違った。

ジリリリン、ジリリリン・・・
電話だ。
いい加減、こんな声しか伝えられない旧式の電話じゃなくて
相手の顔を見てお話が出来るヴィジフォンにして欲しいもんだ。
「はい、マイヤーの店です。どういったご用件でしょうか。
必要であればお取り次ぎいたしますが?」
型どおりの応対をするわたし。
が、その必要はなかった。
「シルフィールか、私だ、ジュリアスだ。」
ジュリアスさんというのはあたしのお父様のお兄様だから
叔父様にあたる方。
つややかな長い黒髪に深い藍(あお)の瞳。
同じ兄弟でも似通ってる点はほとんどない。
強いて言うなら同じ長髪だってことぐらいかしら。
ジュリアスさんはヴァスティール城で機動ユニットの
管制システムの開発に携わっている科学者であり
高度な術を使える錬金術師・アルケミストでもある。
そんな彼からの電話はめったになく、とても久しい。
「ええ、シルフィールですジュリアスさん。お久しぶりです。
今日はどういったご用件でしょう?
マイヤーおじさんにかわりましょうか?」
すると彼は意外にもあたしに対して話し始めた。
「その必要もあるが、それは後で良い。まず用事があるのは
シルフィール、君に対してだ。
シルフィール、レディスに会いたくないかね?
それもなるべくはやい時期にだ。」
「お父様に会えるんですか!?きまってるじゃないですか、
会えるのならもちろん会いたいです!」
「そう言うと思ってたよ。決まりだな。
すまないがマイヤーにかわってくれ」
「おじさんですね、少々お待ちいただけますか」
お父様に会える!
あたしのあたまの中はそのうれしさでいっぱいだった。
受話器を置くと、あたしは軽くステップをふみながら
店の奥のほうにあるガレージに進んで、売り物の機動
ユニットのメンテナンスをしているおじさんのところに
やってきた。
汗が一気に出てくる。やっぱりガレージは空調の効き
があまいらしい。
「マイヤーおじさん、ジュリアスさんからお電話です。
いまお待ち頂いてます。」
と、ハンカチで汗をぬぐいながらおじさんに話し掛ける。
「ジュリアス様から?用件は聞いてるかい、シルフィ?」
「いえ、お父様に会えるとか何とかしか・・・」
「レディス様に?わかった。今行く。」
マイヤーおじさんはレンチを道具箱にほおると電話のある
店舗のカウンターに歩いていった。

「お久しぶりです、ジュリアス様。お元気そうでなによりです。
レディス様に関連することということですがどういった
用向きでしょう?」
「え?あ、はぁ。そうですか、ついに完成?
おめでとうございます。」
こういうときに電話ってやつは困る。ヴィジフォンなら
わたしもジュリアスさんの声を聞けるのに。
おじさんの声は大きいからおじさんの声しか聞こえない。
「で、レスティアに? シルフィを?
ええ、それはもちろんかまいませんが」
中央都市レスティア?うーん、話しがつながらない。
「はい、ではシルフィにかわります。あとは直接お話を。
シルフィ、かわりなさい」
「はいっ!」待ってましたとばかりに受話器を受け取るあたし。
「シルフィール、マイヤーの承諾はもらった。
これから城まできなさい。
エルディ発の16:00時の便で来れば夕餉には間に合うだろう。
そう、連泊できる準備を忘れないように。
レスティアまで行く。詳細は直接話そう。では待っているよ。」
「はい、わかりました!それでは失礼します。」
受話器を置くとチーンと音がした。
心臓がどきどきしてる。レスティアまでいく、
ということはそこでお父様に会えると言うことなんだろうか?
するとおじさんが説明をしてくれた。
「ジュリアス様がレスティアまで行く必要があるんだそうだ。
レスティアにはレディス様もいらっしゃるらしい。
良い機会だから都合さえよければ同行してもかまわない、
そいういことだそうだ。
さぁ、今日の店番はもういいから早く支度をしなさい。
16時の便ならあまり余裕はないぞ。」
「はい!マイヤーおじさんありがとう!大好きよ。」
あたしは思わずおじさんの首に手を回し、
飛びついて頬にキスをした。
・・・・・唇が油まみれ。。。
「ぺっぺっ、おじさん顔洗ってよー。」
「わかったわかった。ほら、早く用意しなさい」
「はーい」
あたしは二階への階段を一段飛ばしで駆け上がった。
階段を登りきり、勢いよく手すりをつかんでくるっと半回転。
一番奥 ―ちょうど店舗の上に相当する部分― のドアをあける。

旅行用のトランクをドレスルームから取り出し、
着替えを詰め込む。
どれだけレスティアに滞在することになるかはわからないが、
レスティアはまがりなりにも中央都市。
荷物は最小限にして必要なら買うかたちをとるのがベストだろう。
でもこれだけはもっていかないと。
机の上にある敷布に置かれた長さ20cm程度の銀の杖。
杖というよりは指揮棒といったほうがわかりやすいかもしれない。
今は亡き本当のお父様からの贈り物で、魔術を行使するときに
ブースターとして作用する。
魔術師ーヴェスタルーとしての証でもある。
いつものように左足のふとももにバンドで固定し、
スカートをおろす。

最後にお父様からもらったバレッタで髪をとめ、帽子をかぶって
トランクをひいて一階に下りた。
一階に下りるとマイヤーおじさんとおばさんがいた。
おばさんはあたしの手をとると「少ないけど旅費の足しに」、と
幾枚かの金貨を握らせてくれた。
時間はもう45分になろうとしていた。
あたしは帽子を手に取り、ぺこりと頭を下げて
「それじゃ、おじさんおばさん、いってきます」
と言った。
「気を付けていくんだよ」っとマイヤーおじさん。
おばさんは「レディス様によろしく」と水筒を手渡してくれた。
「ありがとう。おみやげ楽しみにしててね。じゃ、いってきます。」
あたしはエアスクリーンを抜けて扉をあけ、駅へと急いだ。
少し日は落ちてきているけどそれでも砂漠の中にある
エルディの午後は暑い。
日傘を差しながら途中何度か持参した水筒で冷たい紅茶を
口にしながら駅に向かって急ぐ。
州都、ヴァスティールに行くには飛装帆船に乗る必要がある。
暑さの厳しいエルディでは大きな駅舎があって、
駅舎の中は空調が効いている。
駅前通りまで来て紅茶をひとくち。
ここまでくればもう大丈夫。片手で器用に日傘をたたみ、
「駅」に向かって歩いた。
駅前通りは道路の両側が噴水になってて他の場所より涼しいのだ。
そして露店がたちならびさながらマーケット。
普段、ほとんどの買い物はここですますということもあって、
あたしは常連客。
露天商の前を通るとあちらこちらか引き留める声が聞こえる。
「を、シルフィールちゃん。おでかけかい?」
「ええ。ちょっとレスティアまで。」
「なんと、レスティアかい!いいところらしいじゃないか。
お土産話、楽しみにしてるよ」
「はーい」
そんなやりとりをしていたら16時の便の飛装帆船が遠くの空から
駅に向かって高度を落としながら近づいて来るのが見えた。
「じゃ、あれに乗らないといけないので失礼しますー」
「シルフィールちゃん、いい旅を!」

あたしが駅につくと船はもうプラットホームについていて、
もう乗船がはじまっていた。
入り口のエアカーテンを抜けて、駅舎の中にはいり、
チケット売り場でチケットを購入。
10クレオと5クール。エコノミークラスチケットだし
それほど高くはない。十分お小遣いで足りる程度だ。

あたしがチケットを受け取りると隣には同い年ぐらいの
ブロンドの髪が美しいツインテールのおとなしそうな
女の子がいた。
「ヴァスティールまで」
「10クレオ5クールになります」
こくんとうなずくとお財布から銀貨と銅貨を出して
チケットを受け取り、「・・・・ありがとう」というと
お財布をショルダーバッグにいれながら歩き出し・・・
「あ、あぶな・・」
「・・え?」
次の瞬間、彼女はあたしにもろにぶつかり、ふたりで
しりもちをついた。
「あいたた・・・。つ〜・・・」
「・・・・・痛い。。」
そこではじめて目があった。
きょとんとした青い瞳。
「大丈夫だった?怪我はない?避け損ねちゃったごめんね。」
「あ・・・うん・・・前を見てなかったわたしも悪かった。」
「立てる?」
あたしは手を差し出すと彼女はしばらく逡巡したのち、手を取り
立ち上がった。

からん、からん、からん
出航の鐘の音が鳴る。
「お嬢さん方、お早くどうぞ」
船員さんがタラップのところで待っていてくれている。
「いきましょ。」
「あ・・・・うん・・・」
あたしは手を引いてタラップをわたる。
船員さんはあたしたちが乗船したのを確認してから
タラップを引き込み、もやいをとく。

それと同時に駅の扉が開き駅舎内に熱風がたちこめる。
『メインローター始動、アンカー巻き上げ開始!』
キャプスタン(索巻き機)が回転をはじめ、錨鎖がゆっくりと
巻き上がりはじめる。
『アンカー・アッペンダウン・サー(立錨)しました!』
『アンカー抜錨、機関微速前進!集光セイル展開!』
『機関微速前進、サー。集光セイル展開準備よろし!』

船員さんたちが出航の準備にあわただしく走り回ってる。
「お嬢さん方、いまはここは危ないから船内へどうぞ」
出航の様子を見ていたわたしたちに船員さんが声をかけてくれた。
あたしたちは船員さんの誘導に従って船内に入る。

ドア越しに声が聞こえた。
『キャプスタンに伝達、「アップ・アンカー(錨揚げ)」』
『ヘッドスル(艦首帆)展開よろし!操帆手、
各トプスル(中横帆)及びコース(大横帆)展開せよ!』
『艦首回頭、ハード・ア・ラーボード!(取り舵いっぱい)
ステディアズシーゴー(ようそろ)』
『ハード・ア・ラーボード、ステディアスシーゴー』
ふわりという浮遊感のあと船体が若干傾く。
シャトルはクゥーンというリニアクラフト特有の作動音だけを
響かせて駅をあとにした。

外の様子が気になるのか、彼女はドアの窓越しに外を眺めてる。
「あたしはシルフィール。あなたの名前は?」
「え・・・?えっと・・・・ルシーダ。」
しゃべるのが苦手なのかな?どもりながらルシーダは答えた。
「ヴァスティールまでは一緒よね。」
「え・・・・あ・・・うん。」
「よかったら・・・お友達になりましょ」
「えっ・・・あ・・・・」
そのとき背後に気配を感じ、さっと立ち位置を変えた。
「ルシーダ、こんなところにいたのか。
乗り損ねたのかと思ったぞ」
スーツとかいったかな?最近流行のLCルックだ。
父親、ではなさそうだけど・・・。
「席は前の方にある。ルシーダ、きなさい」
「・・・また・・・ね。」
ルシーダちゃんは蚊の鳴くような声でいうと肩を落として
その男について行った。

「ウェルカムアボート。16時エル・ディ発
ヴァスティール行き飛装帆船をご利用頂き
誠にありがとうございます。
本船はこれよりシルクロードに乗りヴァスティールへ向かいます。
誠に恐縮ですがシートベルト着用ランプ消灯まで
船内が揺れることがございますのでご着席の上
シートベルトを着用頂きますよう
よろしくお願い申し上げます。」
一瞬、ルシーダちゃんのところにいこうかとも思ったが、
二人掛け席の窓側に彼女、通路側に彼がいることからあきらめ、
すぐそこに空いていた席に座り、シートベルトをしめた。

ほどなく、ロールしていた船体が元に戻ると、
シートベルト着用ランプが消灯した。
あたしはシートベルトをはずすとデッキ(甲板)へのドアを開け、外に出た。
デッキに上がるとさわやかな風があたしの髪をくぐりぬけた。

どんどん小さくなっていくエル・ディのほうを見ると、
地平線に日が沈みつつあるのがみえた。
「ルシーダちゃんか・・・お友達になれるといいのにな・・・」
あたしは夕日を眺めながらそんなことを考えていた。


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