11「そして・・・」
マジックサーキットの中でテンペストが、世界最大の軍艦が崩壊してゆく。
暴風の吹き荒れるなか、サリスはホーリーランスを構えたままの体勢で
二枚の大きな集光セイルをその光の翼をひろげ、スラスターで姿勢制御を
しながら・・・・あたかも神の槍をもった戦乙女(ヴァルキリー)の如く
白銀のアーマーナイト、シルヴァリーヴァルキリーはその場にとどまっていた。
ほどなくマジックサーキットが明滅を始め、次第に光が弱くなっていく。
そして光と風の嵐が去ったあと、マジックサーキットははじけ消えた。
「!? まだ残っているだと?」
そう、テンペストはほとんど原形をとどめない状態でありながらその場に、
全長400mの威容を保っているかに見えた。
・・・だが・・・・。
「いえ、テンペスト、墜ちます!」
それが世界最大最強の戦艦の最後だった。テンペストはメインマストの
あった場所を中心にまっぷたつ折れてゆき、まるでスローモーションを
見ているかのように崩れ落ちながら落下していった。
そして地面に激突したとき、ジェネレータが誘爆を起こし、僻地をクレータへと導いた。
「出力を絞りすぎたか・・・」
「ええ、そのようです。予定ではすべてあとかたもなく消え去るはず
だったんですが・・・」
「・・・まぁ、墜ちてしまったものは仕方がない。
降着したアルザード隊への被害はないな?
ホーリランス、レギュラーポジションへ。降下してくれ。」
長い銃身が二つ折りになって背面に移る。
展開したセイルがきらきらと光を放ち、その光が白銀の機体に反射する。
サリスはゆっくりと高度を落とし、残骸となったテンペストのすぐ脇に降着した。
「エフィ、先ほどの救命ポッドの座標を。」
「はい。」
コンソールを操作し、HUDに座標を映し出す。
「・・・近いな。いくぞ。リニアクラフトの出力を絞る。飛ぶ必要はない。」
「承知しました。リニアクラフトスタンバイ、ゲインを下げます。」
白銀の機体が墜ちたテンペストの残骸の傍らを滑るように駆ける。
救命ポッドは正常な角度でリフトオフされなかったのか、ハッチを開放できない
状態で救命信号を発していた。
サリスがそのランチをつかみ、正常な角度に戻し、ハッチを開放できるようにする。
すると、ほどなくハッチが開放され、中から執事がふらつきながらトランクを
持って出てきた。
「こいつ!?やはりっ!エフィ、中を確認する!急いでハッチをあけてくれ。」
「はい、兄様、お気を付けて。」
サリスが片膝をつき、胸部コクピットハッチを開放する。
お父様はコクピット内にあった剣を片手に飛び降りるとランチに近づき、
・・・そして二人は対面した。
「麗騎士!?」
ホルスターからキャデラックを撃ったリボルバーを抜き去りつつ発砲する。
レディスの髪の毛が一房、千切れ飛ぶ。それを皮切りにレディスは剣を抜刀し、
鞘を投げ捨て斬りかかる!
そこに短剣を抜刀した執事が間にはいりこみ、お父様の剣を受け止める。
・・・が、お父様が剣をひねると短剣が執事からはじけ飛んだ。
お父様は剣の柄で執事の体に当身をあて、蹴り飛ばす。
そこにドルガルがさらに発砲する。
だが、お父様は身をひねってそれをかわし、さらに切りかかる。
対するドゥガルはその斬撃をリボルバーで受けるが、
リボルバーの銃身が切り落とされる。
不利と判断したドゥガルは距離を詰め、左手で短剣を抜刀し斬り返してくる。
「麗騎士、貴様さえいなければ!」
間合いをとろうとバックステップを踏もうとしたレディスの式服の襟を掴み、
それを阻む。そしてそのまま胸に短剣を突き立てようとしたが、レディスは
剣で切っ先をわずかにそらす。
それた切っ先は左腕を切り裂かれた。だが、そのままレディスはドゥガルを
蹴り飛ばし、一気に間合いをとる。
「くっ!・・・アリステアにクローディーヌ、それに数百人もの将兵を
見捨てた私利私欲のために生きる将官と交わす言葉はないっ!」
次の瞬間、決着は付いた。
「あの世で皆に詫びろ、ドゥガル!」
レディスの剣が、麗騎士の剣がドゥガルの心の臓を正確に貫いたのだ。
・・・執事は事の顛末を見届けるとトランクを地面に投げ出し、デリンジャーを
取り出すと口に銃口を差し込み、迷わずその引き金を引いた。。。
あたしはコクピットからサリスの手に乗り、地面に降り、ゆっくりと歩いて
レディスの側に寄り添った。
腰帯に挟んだ銀の杖は右手にある。
「さて・・・兄様。終わったようね。そろそろお別れの時間だわ、兄様。」
明滅する銀の杖の宝石。
「悲しまないで、兄様。私たちが再び出逢えたのは・・たとえ別れが悲しみを
残したとしても、それでも、間違いじゃないんですから・・・。
兄様は、わたしがここにいる理由(わけ)を教えてくださいました。。
そして、わたしは大好きな二人のお兄様の為に・・・少しだけお手伝い
ができました・・・だから・・・」
「エフィっ!」
彼が指を伸ばすけれど、あたたかな光は銀の杖からゆっくりと空にかき消えてゆく。
レディス兄様、ありがとう・・・大好きでした・・・・
そんな声が、聞こえたような・・・気が、した・・・・。
エフィメラは、逝ってしまった。
そして、今こうして、一つの世界がこわれた。
エフィメラが微笑んでくれる場所は、ここにはもうない。
同じ名前、同じ性格、同じココロを持つエフィメラシステムという
彼女の生き写しがここ(サリス)にいるが、やはり彼女自身ではない。
「お父様・・・・」
「わかっている、フィール・・・悲しまないで欲しい、それがエフィメラの
最後の願いだった。」
「でも、いまのわたしには、たとえシステムとしてサリスにエフィメラが
いたとしてもエフィメラが死んだことと、かわりはないんだよ・・・」
一緒にいればいるほど、別れは辛くなる。
一緒にいればいるほど、離れられなくなる。
そして、離れられなくなったからと言って、わたしたちは決して、
お互いが幸せになれることはない。
もうエフィメラはその身体を失っていたのだから。
エフィメラは、それが解っていたから、辛い決断をした。
そして、それは正しいことだと思う。わたしたちはお互いに
歩き出さなくてはいけなかった。
そして、お互いが歩いていく方向は、全く違っていた。
運命という名の悲劇。
短かったけどエフィと一緒にいた時間は、わたしの胸の中に
ちゃんと残っている。
彼女と一緒にいた時間は、悔やむためのモノじゃない。
これからのわたしが生きていくための、きっと力になってくれるはずだから。
エフィに出逢って、そこからゆっくりと彼女の優しさは
波紋のように広がって・・・きっとみんなに少しずつ伝わっていく。
エフィという素敵な妹がいたことに・・・感謝します。
人は・・・人の想いは、きっと、きっと前に進むための力
じゃなくちゃいけない何時までもここに居たい、このままで居たいー
そう思っていても、そうである以上その場所の永続なんてあり得ないし、
存在しない。
だから、わたしはこのままで居たい、と考えるのは正しくない、と考える。
この素晴らしい今を、この一瞬を糧にして、もっと良くしたい、
素晴らしいものにしたい。
そんな風に前に進もうとすることが・・・
わたしはその一歩を踏み出す力を彼女を救えなかったそのときから、
いやもしかしたらそのずっと前から失っていたのかもしれない。
これから、頑張ってみることにする。
願うことが叶うことに通じるなんて思っていないけれど・・・それでも・・・
それでも、エフィに「力」を貰ったのだからー
お父様の表情が変わった。それは新たな決意の表れだろうか。
もうすぐ夜明けだ。日が昇り、すべてが暁に染まる。
その柔らかな光を受けてサリスがやさしさに満ちた色で煌めく。
そしてそこには季節はずれの小さな雪がチラチラと降り始めていた。
てのひらにおちては消えてゆく砂漠の中の雪。
あたしは目の前いっぱいに広がった暁の空を見上げ、こうつぶやいた。
「あなたの行く道が、どうか一筋の光と在りますように」
エピローグへ
少しでも気に入ってくれたらボタンを押して頂けると嬉しいです。
戻る