10「銀の剣」
『おとなしく投降しろ、さもなくば船ごと消し炭にしてやる』
3機のアルザードがロケットランチャーを向けたまま砂漠に不時着した
センチネルを包囲する。
「クッ・・・マイヤー、無事か?」
「ええ、なんとか。如何なされるおつもりで?、レディス様?」
「・・・マイヤー、悪いが囮になってくれ」
「でしょうな、それが最善でしょう。・・・必ずなんとかしてください、
それとシルフィを頼みます。」
そう言うとマイヤーおじさんは操舵席から飛び降り、手を上げた。
『こちらアルザード、テンペストへ。
小型艇の逃走を阻害、小型艇は中破。乗組員1名の身柄を確保した。』
『先行していた機動ユニット隊からの連絡です。小型艇を確保、
乗組員1名を捕らえたした、とのことです。
艦長、主砲列の射撃準備は中止なさいますか?」
『いや、確保したとは投降を確認したわけではないのであろう?
ならば命令はそのままだ。小型艇を右舷主砲列の射界にいれろ。
右舷主砲列は二段装填の準備を!』
『サーイエッサー。アッパー、セカンド、ミドル及びロアーガンデッキに伝達!
右舷砲列、二段装填!』
今は敵の注意はマイヤーおじさんさんに向かってる。今がチャンスだ。
あたしはHUDを次々とオンラインにしていく。
『で、この積み荷はいったい何なんだい』
マイヤーおじさんはお手上げのジェスチャアをしてこう答えた。
「自分たちで確かめたらどうだ?案外たいしたものじゃないかもしれないし、
ことによってはお宝かもしれんぞ。」
『自分の目で確認しろってかい。まぁいい。
ジャック、コンテナをこじあけてみろ。』
『びっくり箱じゃないことを祈るよ』
ドーラがセンチネルにゆっくりと歩み寄り、コンテナをつかむ。
「兄様、機体制御システムオンライン、コンディショングリーン、
システムオールエンゲージ。
お待たせいたしました。いけます!」
「よし、行くぞ!」
傍目にはアルザードのアームがさらに奥にもぐりこみ、バランスを
失ったように見えたに違いない。
『おい、ジャック、何を遊んでいるんだ?』
なにが起きたかわからないでいるジャックと呼ばれたアルザードは
さらにコンテナの中に引きずり込まれる。
『うわぁあ!、この中に何かが!!』
裂けたコンテナの中で光り輝く集合体センサー、モノ・アイ。
「Aeromoer kight "Tharith"Stand by Rady.SETUP!」
コォォォー
ジェネレータがうなりをあげる。
次の瞬間、アルザードは右のアームをつかまれたまま、宙吊りにされていた。
『CICからです。艦長、小型船舶より大型の熱源を感知したとのことです。
現在アルザードが交戦中。』
「一体何を企んでいる、麗騎士・・・。」
『光学映像、出ます!』
『「白銀の機動ユニットだと!?」』
銃口を下げていたアルザードが反射的に銃口を向けるが、
そのアルザードに向かってアームをつかまれた一機が投げつけられる。
二機の機動ユニットはもつれあうように倒れこんだ。
機動ユニットはこういった想定外の行動に対応できないのだ。
「殺るぞ、ショットライフル、ショットガンモード!」
右手に構えたライフルの半ばにあるカバーが下がり、リボルバーが
くるっと回転し、再びカバーが戻る。
カシィッ
その瞬間、銃身にマジックサーキットが生じる。ライフルのカートリッジに
錬金術が施してあるのだ。
バシュゥ!!
次の瞬間、無数のビームが二機のアルザードを貫いた!
爆音とともに吹き飛ぶアルザード。
ライフルの銃底がスライドし、排熱ダクトが白煙をあげて元の位置にもどる。
モノ・アイが次の1機を捕らえる。
『携行可能なビーム兵器!?』
パイロットたちの恐怖の表れか、あとずさりするアルザード。
だが、それが致命的なミスになった。
「ブレイド!、たたき斬る!」
ゴゥッ
スラスターが咆哮をあげ、白銀のアーマーナイトが迫る!
サリスは背中の集光セイルから実剣を引き抜く。
それと同時にカートリッジが廃莢されて実剣にマジックサーキットと
ビームの刃が形成される。
ドーラは胴体を真っ二つに叩き切られた。
ミサイルとロケット弾が誘爆を起こし、3機のアルザードは
交戦開始からものの1分とたたないうちに消し炭になっていた。
『艦長、アルザード隊、シグナルロスト。アルザード隊、応答を
お願いします!アルザード隊、応答を願いします!誰か返事を!!』
しばしその光景にあっけにとられる艦長。
『機動ユニットにあのような流麗な動きができるとは・・・信じられん。』
だが、あたまを振り払い命令を下す。
『回頭急げ!右舷斉射、撃ち方用意!』
『サー。現在回頭率60%、主砲列射撃準備開始します』
マイヤーおじさんはどうやら無事なようだ。
「よし、テンペストを墜とす!フライトモードシフト!」
「承知しました。フライトモードへシフトします。
リニアクラフト起動。」
全高18mはあろうかという二枚の集光セイルと長大なホーリーランスを
背負った人型の機動ユニット、アーマーナイト・サリスは集光セイルが
開き輝きを帯びると機体がゆっくりと地面を離れた。
「Chenging Flight Mode Setup!」
背中にある集光セイルが展開し、両の足が折りたたまれる。
続いて胸部が開き、両腕がおさまり、ライフルが腕部に固定される。
頭部のバイザーが降り、折りたたまれていたメインマストが起きあがり、
ロックされる。それと同時に背中にあった二つ折りの長大なホーリーランスが
腰部までスライドし、全高の二倍はあろうかというホーリーランスの砲身が
尾のように延びて固定された。
わずかのうちに人型のアーマーナイトは長大な尾を持った翼竜を思わす
フォルムに変形していた。
「相手は最強最大の軍艦だ。覚悟はいいな?」
「"きっと"できます、わたしの兄様とこのサリスがあれば」
「そうよ、きっと大丈夫よ、お父様」
「良い返事だ。よし、行くぞ!」
「「はい、兄様\お父様」」
ジェネレータがうなりをあげ、集光セイルに光がほとばしる。
次の瞬間、オーバーブーストを使った白銀のアーマーナイトはこちらに
回頭しようとしているテンペストに向かって一筋の雲をたなびいて
接近していった。
『敵機、変形をしました!本艦へ向けて急速接近中!』
『ビーム兵器を搭載した上に可変だと?リニアクラフトも搭載してるのか!?
一体なんなんだあの機動ユニットは!」
「・・・シルヴァリーヴァルキリー、もう出来上がっていたのか」
『ドゥガル様、あれをご存じで?』
「設計図だけの絵に描いた餅だと思っていたが実際にプロトタイプが完成していた
ようだな。艦長、あれは本艦に致命傷を与えられるとも限らん、断じて接近させるな!」
『ドゥガル様・・・?、承知しました。右舷迎撃開始、回頭急げ!』
『サー・イエッサー。各ガンデッキに伝達!ガンランチャー、
およびチェーンガンによる迎撃を待機せよ!』
「テンペストは依然として回頭中。主砲列の稼働を確認、
主砲射界まであと43秒」
光学映像でテンペストがバンクしながら回頭していくのが見える。
四層甲板の戦列艦の主砲の数は片舷で50門はくだらないだろう。
サリスがいかにすぐれたアーマーナイトであったとしてもテンペスト級
の主砲の直撃を受ければ致命傷は免れないだろう。
「先手を打つ!ディザスターを使う!目標、テンペスト、
アッパーガンデッキ(上部砲列甲板)!」
「ディザスター、Rady2 Stand by RadySetup!ターゲットロック、Fire!」
両翼につり下げられていたディザスターと呼ばれていたランチャーが火を吹き、
そのカートリッジはそのまま投棄される。
『こちらCIC。敵機、発砲!ロケットランチャーのようです。
チェーンガンによる自動迎撃を開始します。
・・・いえ、照準が狂っているようです。本艦への直撃コースではありません。
回頭および主砲列の射撃管制を優先します。』
『照準がずれている?・・・まさか!いかん、迎撃を優先させよ!』
『は?』
『ランチャーを撃ち落とせ!早くしろっ!』
『ランチャー接近!迎撃、間に合いません!』
ディザスターは白煙の弧をたなびきテンペストの"上空"に到達する。
次の瞬間、真下のテンペストに向かって劣化ウラン製の自己鍛造弾のシャワーが
テンペストを襲った。倒れるマスト、吹き飛ぶ砲列。
エフィメラはさらりと状況報告をする。
「ディザスター命中、メインマストおよびメインローターの破壊を確認。」
「すごいっ!」
思わずあたしが感嘆の声を漏らす。
「自己鍛造弾のランチャーです。サリスに装備可能な対艦武装のひとつですよ」
「自己・・・?」
「一発限りの機動砲台と思ってもらえばわかりやすいかと」
「あ、うん、なんとなくわかった。」
赤色点滅灯が光り、艦が危険な状態にあることを示している。
『損害状況の報告を!』
『メインマスト倒壊、アッパーメインローター作動停止、アッパーガンデッキ
沈黙!推力15%減少、アッパーメインローター作動停止に伴い浮力が
18%低下!』
『ちぃ、ダメコン班を回せ!メインマストを切り落とせ!
他のマストへの負担が心配だ!引きずられるぞ!CICは無事だな?
右舷砲列、斉射!目標、敵機動ユニット!』
『撃てぃっ!!』
「アッパーガンデッキ(上部砲列甲板)沈黙!敵、砲撃、来ます!」
「スタンスル(補助帆)を開け!近接戦を挑む!オーバーブースト!」
さらに翼端より集光セイルが延び、淡い光を帯びると同時にサリスは
猛烈な加速を始めた。
「ぐっ・・・苦し・・・」
「フィール、Gは瞬間的なものだ、我慢してくれ!」
テンペストの主砲の攻撃を紙一重でかわし、バウ(艦首)に回り込む。
「スタンスル閉じろ!ブレイドでガス嚢を切り裂く!」
『主砲斉射、回避されました!敵機、バウに回り込みます!
敵機近接戦を挑むようです!急速接近!』
『なんなんだ、この機動ユニットは!?』
『こちらCIC、ガンランチャー、チェーンガンにて迎撃開始します!』
『撃ち落とせぇっ!!!!』
両端のスタンスルが閉じられ、両翼のブレイドがカートリッジを廃莢、
ビームの刃を形成する。
サリスはテンペストの真ん中をバウからスターン(艦尾)に向かって
なめるようにガス嚢を切り裂いてゆく。
テンペストのモーターカノンがうなりをあげて迎撃しようとするが、
ここまで近接した小さな相手にそうそう当てられる物ではない。
もともとこんな兵器の相手をするように設計されていないのだ。
サリスはそのまま迎撃を無視し、スターンまで切り裂くと大きくバンクし、
テンペストのスターンチェイサー(艦尾迎撃砲)の砲撃をかわす。
「ちっ、やはりあれだけでは落ちないか!」
激しいGのなか、お父様がいまいましげに舌打ちをする。
「船体が大きすぎてブレイドがジェネレータまで届かないようです」
銀の杖の宝石が明滅する。
メンマスト、メインローター、さらに片舷のガス嚢を切り裂いても
いまだ悠然とサリスへの攻撃を繰り返すテンペスト。
スターンチェイサーからの攻撃をホーリーランスをしっぽのように
振り下ろし、慣性機動(AMBACK)でやりすごすお父様。
いましがたあやうい一撃を放ってきたスターンチェイサーに
向かってライフルをショットガンモードで撃破する。
回転するリボルバー、白煙をあげる排気ダクト。
『第一から第三ガス嚢がやられました!浮力なおも低下中!』
舌打ちをする艦長。
『大丈夫だ、テンペストはそれぐらいの被害では墜ちん!
浮力低下を利用するぞ、ダウントリムさらに+10、
敵機との距離を取れ!左舷斉射用意、高度300mで急速反転
、仰角最大にして撃ち落とせ!デッキを開け!アルザード隊を
デッキから迎撃に回せ!』
『サー・イエッサー。ダウントリム+10、セカンド、ミドル、
ロアーガンデッキに伝達、左舷斉射用意!仰角を最大に取れ!
急速反転後、一斉射撃を行う!機動ユニットデッキ展開準備、
アルザード隊、スタンバイ!』
そのまま悠然としているかと思われたテンペストは艦首から
地表に向かって降下をはじめている。
多少なりともダメージを与えられたということか?
それとも・・・。
そのとき、左舷に格納されていた砲列が射撃体勢にはいるのがみてとれた。
この相対位置であれば射界にすら入らないが、戦意を
喪失したというわけではなさそうだ。
ならば一気に墜とすのみ!
『アルザード隊、出撃準備完了、デッキを開け!敵が
艦舷(ギャングウェー)をよぎる瞬間を狙え!』
艦の中央部の格納式デッキがゆっくりと展開し、ハンガーロックを
解除された機体がデッキに向かって歩を進める。
「兄様、テンペストのデッキ(甲板)が展開しています!機動ユニットを
用意したようです。さらに援軍とおぼしき艦艇が接近しつつあります。数、2」
「この状況ではどうみてもこちらが敵にしかみえないだろうな。
やむをえん、先手を打つぞ!識別信号確認!」
「レベリオン、ルクシオンです。」
「フリーゲートとブリッグか。よし、先にレベリオンを落とすぞ!オーバーブースト!」
「了解!」
サリスはオーバーブーストを点火し両翼から雲をたなびきながらフリーゲートタイプの
飛装帆船に猛烈な勢いで近づいてゆく。
主砲群のレールキャノンがせり出してくる。
「レーザー照準、きました。敵艦発砲!」
「かわせぇっ!!」
サリスはバレルロールを行いながら、機速を落とさず砲撃を回避する。
「レイブレード展開!マストを切り落とす!」
両翼のブレイドがカートリッジを廃莢、ビームの刃を形成する。
次の瞬間、サリスのビームの刃はレベリオンの2本のマストとワイヤー類を
すり抜けざまに根本付近で切り落とした。
「AMBACK!」
尾のように長く延びたホーリーランスが振られる。
速度を殺し、反動で機体の向きを90度かえたサリス。
「オーバーブースト!」
空中で向きを瞬時にかえたサリスはスラスターの咆哮をうけて艦尾に残るミズンマストに
向かって加速を開始する。
そして残ったミズンマストも切り落とす。あとはバウスプリットに2枚のセイルが残るのみ。
こうなればヒューベリオン同様、もうまともな戦闘行動はとれない。
いや、新鋭艦でない分エネルギー効率が悪いから浮いていることすら困難かもしれない。
すでに艦尾の方から墜ちつつある。
『キャデラック艦長、席を外させてもらう。傷が痛むのでな。
命令はそのままだ。賊を捕らえよ。度が過ぎたようだな。もう生死は問わん。』
『・・・承知しました。』
承伏した艦長のあとに、執事を連れてブリッジを去るドゥガル。
『嫌な予感がする。』
『艦長?』
『いや、副長、すまない。気にしないでくれ。』
『サー・イエッサー!』
その傍ら、レベリオンが既に戦力外になったと判断した兄様の目はもう一隻、
ルクシオンに向いていた。
「いくぞ!ルクシオンも墜とす!」
スロットルを開く兄様。
両翼が爆発的なフレアを伴い、一気にルクシオンに向かって加速をする。
ルクシオンは砲門は開いているが、攻撃してくる様子はない。
「・・・何故攻撃してこない? まぁいい、スタンスル開け!」
スタンスルを展開し、更に加速するサリス。
だが、砲の異変に気づいたのと敵が砲撃をしかけてきたのは同時だった。
「砲の口径が大きすぎる!?カロネード砲か!やられたっ!オーバーブーストカット!」
そう、ルクシオンが搭載していたのは通常のレールキャノンではなく
近接戦闘用の爆裂弾を射出するカロネード砲だったのだ。
サリスの直前に爆裂弾が弾幕を形成した。
翼端がその弾幕にあたり、激しく振動する機体。
千切れ飛ぶ翼端。
反動で機体があらぬ方向へスライドする。
激しいGが襲いかかる。
ぐっ・・・・
「きゃぁぁぁ〜」
「エフィ、姿勢制御を!」
「了解しました。コントロール制御を受けます」
目の前のHUDがめまぐるしく展開しては閉じていく。
ほどなくスライドしていた機体はルクシオンの直上で停止した。
「カロネード砲があるのであれば先ほどの様にマストだけを
切り倒すことはできない。爆導索を使う!」
「了解っ!」
機体からワイヤーが射出され、ルクシオンにアンカーされる。
「爆導索ワイヤーエンゲージ!」
次の瞬間、機体が自由落下し始める。
そしてサリスはオーバーブーストが点火されてルクシオンの艦舷を
カロネード砲が発砲されるより早く艦底に向かってすり抜ける!
艦底まで回り込んだサリスは再度ホーリーランスを
振り下ろしてAMBACK機動を行い姿勢制御。
オーバーブーストを再度使って今度は反対側の艦舷から直上へ駆け上がり、
静止した。
こうしてルクシオンにアンカーされたワイヤーは船体の中央付近を結い上げた。
「墜ちろっ!」
掛け声とともにワイヤーを振るう。
一本のワイヤーに光が走った。
次の瞬間、船体は爆風につつまれ、ルクシオンは船体中央付近から
まっぷたつになった。
いくつものパラシュートが広がっていくのが見える。
剛性のないブリッグには爆導索の攻撃は強すぎたようだ。
『あれがシルヴァリーヴァルキリー・・・・。』
呆然とするブリッジ要員に檄を飛ばすキャデラック艦長。
『なにをみとれている!アルザード隊に迎撃を!今度はこっちに来るぞ
デッキにて展開中のアルザード隊に伝達、敵機を迎撃せよ!
・・・エルヴァ副長、しばらくここを頼めるか?
確認しないとならないことがあるのだ。』
『艦長?・・・重要なことなのですね、承知いたしました。
お任せください。シルヴァリーヴァルキリーを墜とすぞ!
砲術長、レーザー照準!』
『すまない、副長。』
キャデラックはそう副長に言うとバトルブリッジを離れた。
Piー
「敵機動ユニットからのレーザー照準によるロックオン警報です!」
「やはり徹底抗戦の構えはかわらないか。」
「そのようですね。」
「ちっ・・・エフィ、残念だが降伏はしてくれないらしい。
まぁ、もとよりドゥガルがこの期に及んで降伏するとは思えんが。
いくぞ、テンペストを墜とす!バウから回り込みつつスターンへ!」
「残弾確認、ショットライフルスペアリボルバー4、左右ブレイドカートリッジ各10、
ホーリーランスカートリッジ1」
「オーバーブースト、カウント!」
「3・・・2・・・1」
爆発的な加速力を得たサリスはアルザードの攻撃とテンペストの砲撃を回避しつつ
今度はテンペストの左舷に回り込む。
「レイブレード!」
右翼からカートリッジが排出され、レイブレードが展開する。
バウからスターンへ。艦尾近くにある格納庫のデッキにいたアルザードをも切り裂き、
スターンでAMBACK機動で回頭し、スターンチェイサーをまた1門ショットライフルで
破砕する。
程なくガンランチャーがサリスを追い立てるがサリスは艦底に回り込み、
射界から逃れる。
「これでテンペストの約半分のガス嚢を破砕したはずですが、いまだ健在のようです。
やはりレイブレードやショットライフルだけでは絶対的な火力が足りません」
「ちっ・・・やむを得ん、ターゲットが大きすぎて話にならん!
ホーリーランスを使う!」
「使うんですね。・・・承知しました。ホーリーランス起動、システムオンライン。
ホーリーランス・セカンドジェネレータ始動、
ニュークリアカートリッジローディング開始。
マジックサーキット起動。ホーリーランス、スタンバイ!」
『現在、敵機はスターンからガンランチャーに追われて
艦の下に回り込んでいる!じきに艦舷から上に顔を出すぞ、
その瞬間を狙うんだ!』
「直上から狙う!回りへの被害は最小限度にとどめる!
出力は可能な限りおさえろ!」
ガンランチャーの追尾をかわし、両翼端から雲をたなびきながら
急上昇するサリス。
「ショットライフル、アサルトモードだ!
展開したデッキの一部を吹き飛ばすぞ!」
格納された右手に備え付けられたライフルの半ばにあるマガジンから
カートリッジがリロードされ、廃莢される。
再び銃身を取り巻くマジックサーキット。
先ほどまでとはことなるものだ。
次の瞬間、無数に連射されたビームがほぼ真下からデッキを貫き、
その上にいたアルザードをも貫いた。
ライフルの銃底がスライドし、排熱ダクトが白煙をあげて
元の位置にもどる。
誘爆こそしなかったものの、ビームで貫かれたアルザードと
その乗っていた部分の展開式デッキがねじ曲がり、
機体が転げ落ちそうになる。どよめく兵士達。
なにせ、この相対位置ではこちらからは攻撃のしようがないのだ。
『デッキを狙ってきたか!?来るぞっ!』
きりもみ飛行をしながら急上昇するサリス。
そのとき、ドゥガルは窓からホーリランスを準備しつつ急上昇する
サリスを目撃していた。
「・・・やはりアレも持っていたか。トランクを持て、いくぞ。
発射までそう時間はないはずだ。」
執事がトランクを手にしたのを確認したドゥガルは救命ポッドの
ハッチに手を掛けた。
そのとき、それを遮るように声が響き渡った。
『どちらへいかれるおつもりですか、ドゥガル様』
「・・・勝手に持ち場を離れるのは君らしくないな、キャデラック艦長。」
『持ち場はいまエルヴァ副長が守っています。
どこへいこうというのですか、ドゥガル様?』
次の瞬間、ドゥガルはホルスターからリボルバーを抜き、キャデラック艦長
に向けた。
『将兵が必死に戦っている中、あなたは何をしようとしているのか!』
「・・・キャデラック艦長、君はもう用済みだ」
ドゥガルはためらわず引き金を引いた。
弾丸はキャデラックの左肩を貫き、反動で壁に叩き付けられた。
「アルスターでは人を黙らせるにはこうするそうだ」
続けて右足の膝を撃ち抜く。
『ぐっ。』
床に倒れ込むキャデラック。
「秀逸な人材だと思っていたのだが残念だ。死へのカウントダウンははじまっている。
あの世で後悔するといい」
そう言い残すとドゥガルは執事を連れて救命ポッドに乗り込み、ハッチを閉め、
機体を固定する離脱レバーを押し下げ、テンペストから離脱した。
「兄様、救命ポッドとおぼしきものが一機、テンペストから射出されました。」
「救命ポッド?・・・念のため着地座標を控えておいてくれ。
よし、一気に直上をとるぞ!」
「承知しました。」
あっという間にテンペストの艦舷をかすめて雲をたなびきながら
ぐんぐんと上昇していく。
そしてその航跡からキラリとなにかが光り、降ってくる。
『総員艦内へ待避!スプレッドグレネードだ!』
すり抜けざまにばらまかれたスプレッドグレネードはテンペストの
デッキに降り注ぐ。無論その程度の攻撃でデッキがもっていかれる
ようなことはないが、機動ユニットは別だ。
致命傷を与えられないとも限らない。
『攻撃手段は各人に任せる!奴を撃ち落とせ!』
スプレッドグレネードの爆風を耐えたアルザード隊が
ミサイルランチャーを、レールガンを、ロケットランチャーを
上昇してゆくサリスに向かって次々と放つ!
「ECM最大出力、フレア展開!慣性機動(AMBACK)による
回避を行います。」
急上昇しながら通常ではありえないジグザグな機動で機動ユニット
からの攻撃を回避するサリス。
「きゃ、きゃあ!」
激しい挙動に振り回されるあたし。
「すまない、あと少しだ、がんばってくれ!」
『敵機急速離脱!あきらめたのか?いや、そんなはずは・・・くそ、
こんなときに艦長がいてくれれば・・・』
そう自問するがブリッジにキャデラックの姿はなく戻ってくる様子もない。
『なんとかしたいところだがやむを得ん。手の空いてるもの、
艦長を捜してくれ!・・・ん?
1番の救命ポッドがリフトオフされているな?
まずはデッキへ行って確認をしてくれ!』
『副長!自分が行って参ります!』
『ハービィか、大急ぎで頼む。』
『イエッサー!』
ハービィと呼ばれた将兵がブリッジをあとにする。
『敵機、さらに離脱していきます!』
『いや、違う、なにかをしかけてくるぞ!撃ち落とせ!!』
『ガンランチャー、およびチェーンガンの有効射程・および
射界から外れました。現状では迎撃は不能です。」
『くっ、どうすれば・・・あ、アルザード隊に伝達、機体をデッキに
固定させよ!進路転進、サウス・パイ・ウェスト(南西)、
フル・ア・ヘッド(機関全速前進)。ダウントリム20、急速回避!』
『サー・イエッサー。、サウス・パイ・イースト、機関へ伝達、
フル・ア・ヘッド!』
「スナイピングポイントに到達と同時にモードシフト、
集光セイルを展開させろ!」
さらにぐんぐんと上昇していく白銀の機体。
「スナイピングポイントに到達。モードシフト開始、
スタンスル展開、エネルギー補正開始します。
カートリッジ内のエネルギー補正中、ホーリーランス、
エネルギー臨界点までカウントスタート準備よろし」
両足が伸び、両腕が展開。腰部にマウントされていた
二つ折りのホーリーランスを左手で引き出す。
それと同時に胸部が閉じ、頭部バイザーが開き、モノ・アイが光る。
「セフティ解放、マジックサーキット展開します」
刹那、テンペストが幾重ものマジックサーキットでとりかこまれる。
淡い光を放ちながら全高の二倍の長さのホーリーランスをかまえるサリス。
『艦全体がマジックサーキットで包まれています!兵器種別は不明ですが、
ロックオンされた模様!敵機エネルギー反応増大、錬成反応を確認。
依然として上昇中!危険域に達します!敵前の空間が湾曲しています!
アルザード隊の攻撃が当たりません!!』
CICからの悲鳴が聞こえる。
そこにハービィに肩を借りてキャデラックが戻ってきた。
『艦長!?その傷は!?』
『副長、すまない。しくじったようだ。ドゥガルはもうこの艦にはいない。
虫の知らせと言う奴だ。席を外してすまなかった。左舷砲列は?』
『砲撃準備完了しております!』
『よし、ハード・ア・スターボード(面舵いっぱい)、ダウントリム+10!
全速回避っ!』
艦体が急激な回頭で大きくかしぐ。
『いまだ!左舷砲列、仰角最大、撃て!!』
決死の主砲列の斉射がサリスを襲う。
だが、砲弾はホーリーランスの先端に収束しつつある光球によって
方向をねじ曲げられ、50門近い砲列からの砲弾もアルザードからの銃撃も
直撃せず機体をかすめてゆく。
「目標、回避運動を開始しました。目標の回避運動はトレース中。」
「・・・テンペストへの回線を開けるか?」
「はい、、、少々お待ち下さい。ジャミングされてますので音声のみになりますが
よろしいですか?」
「かまわん。」
HUDがPOPUPし、赤が緑色に変わる。
「回線開きます」
「テンペスト艦長、レイ・キャデラックに告げる。本機はこれより貴艦を撃墜する。
5分間猶予を与える。これは警告だ。退艦せよ。」
『・・・レディス卿か。』
「久しいな、キャデラック艦長。ドゥガルのしでかしたことの後始末をする。
ヴァスティールにテンペストは不要だ。退艦してくれ。」
『貴公の与えてくれた猶予に感謝する。』
「ん?こうもやすやすと・・・ドゥガルが投降するということか?
いや、しかしそんなことは・・・」
「お父様、もしかして先ほどの救命ポッドがもしかしたら彼だったんじゃ?」
「・・・まぁいい、退艦を確認後、テンペストを撃墜するぞ!」
「はい、兄様/お父様」
マイクを手に取り、退艦命令を告げるキャデラック。
『総員、退艦せよ!アルザード隊はそのまま降着せよ』
『では艦長。艦長は怪我をなされているのですからお早く・・・』
『君が乗組員を連れて退艦するのだ』
副長が艦長の右肩をつかんだ。驚きのあまり口調が乱れる。
『駄目だレイ!君を見捨てていくわけにはいかない!』
「・・・エルヴァ副長、君が、私がこれまでにあった中でもっとも優秀で
立派な軍人であることは、疑う余地がない。グリモア、ディティス、
トラファルガルに至るまできみは一度として責任を回避したこともなければ、
私の命令に背いたこともない。だから、わたしは、今になってそんなことを
させるつもりは、毛頭無い。」
エルヴァはその場で直立し、少々堅苦しい言い方で答えた。
『艦長の意志に従います』
『結構。』
さらにキャデラックが告げた。
『それでは時間がない。急いで退艦してくれ』
キャデラックは足を引きずりながら艦長シートに腰掛けた。
『艦長』
『なんだ?』
『あなたの部下であったことは、最上の光栄です。』
『・・・ありがとう、副長。』
後部デッキから格納されていたアルザードが次々と降下していく。
救命ランチ、救命ポッド、カッターが一機、また一隻と離れていく。
「・・・時間です、兄様。退艦を確認。ホーリーランス、Stand by Rady。
兄様、いつでもいけます。」
「よし、いくぞ!カウント!」
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・兄様!」
「沈めっ!!」
機体の10倍はあろうかという光球がマジックサーキットに
捕らえられたテンペストに向かってゆっくりと近づく。
砲撃の反動でバランスをくずすサリス。
そして光球がマジックサーキットにふれた時、
耳をもつんざく轟音とともに周囲に風速50mはあろうかという
突風が吹き荒れた・・・。
。
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