6 「ヴェスタル」
お父様が先行して四階に駆け上がる。
予想していた通り、とでもいうべきか。近衛兵が10数名、銃を構えて
待ち構えていた。
「我は麗騎士!レスティアシアを守りし刃なり!
レスティアシア妃を想う心があるいならば剣を、銃を引け!伏せよ!
さもなければ、斬るっ!!」
下の階での先ほどの惨状を察していたのか、お父様の呼びかけで半数は
銃を下ろし、床に伏せた。でも、もう半数は・・・
すばやくレイブレードにカートリッジを装填する。
そしてそのカートリッジの中身をバスターモードで解放するお父様。
緑色の光があふれ、その熱量の刃は伏せた兵士の上を通り過ぎ、
銃を構えていた兵士たちを飲み込み、
廊下の蜀台を、絨毯を窓ガラスを滅茶苦茶にしながら西側通路の壁まで突き進んで行った。
「・・・フィール、行こう。」
あたしはお父様のあとについて、めくれ上がって滅茶苦茶になった
絨毯の上を、廊下を控えの間に向かって歩いて行った。
どれぐらい歩いただろう?
ひどく遠く感じる。
こんなに遠かったかな・・・?
先に気づいたのはあたしだった。
回廊に違和感を感じたのだ。
「お父様、この回廊、何か変だわ。」
「変・・・?」
お父様様が歩みを止め、つぶやいた。
「チッ・・・。また結界か?」
お父様が舌打ちし、腕を組んで考え込む。
「ううん、今度のは違う。多分無限回廊。」
そう、無限回廊。つまりはいくら歩いても走っても目的の部屋
にはたどりつけないのだ。
このループから逃れるにはループのつなぎめをみつけなければならない。
確実に術を編むため、あたしは赤チョークを取り出すと先ほどの
攻撃でめくれあがってる絨毯をひっぺがし、床に魔方陣を描き始めた。
「お父様はこういうのはわからないのよね?
あたしが範囲特定(エリアサーチ)をかけるからループのほころびを斬って!」
「・・・わかった。任せる。フィール、頼む。」
お父様はレイブレードの刃を斜に構えた。
床の魔方陣が淡い光を放つ。。光は天井に達し、
あたしの前後の回廊を探索(サーチ)してゆく。
2m、5m、10m・・・見つけたっ!
光が一点に集中してゆく。
「お父様!」
あたしが声をかけるや否や、お父様は一気に跳躍し、その一点を
袈裟懸けに切り裂いた。
ぎゅぃん
一瞬目の錯覚のようなゆがみが見えた後、回廊は元通りになった。
「・・・ループを切れた、のか?」
あくまで騎士であるお父様はこういった魔術結界などの感覚に疎い。
「ええ、ちゃんと切れてるわ。もう大丈夫。」
邪魔な者を近づかせないために布いた無限回廊が破られた。
間違いない、彼が、愛しのレディス様がやってくる。
それももうすぐそこまで来ている。
だが、それと同時に狂おしいまでの嫉妬があった。
エフィメラ姫。
「・・・妬ましい。数々の危険を冒してまで貴女を助けに来るなんて。
わたしのことは助けに来てくれないというのに。
あるいはわたしではなくアリステアだったら・・・」
漆黒の髪の毛が真紅に燃え上がり宙を舞う。
「まぁいいわ、それでも彼はわたしのところに来てくれたんだから。」
来たら彼の前でエフィメラ姫をくびり殺そう。
そしてアリステアももういないことを知らせよう。
そう、彼の前にはわたししかいないことを伝えよう。
悲しむかもしれない。でも彼にはわたしがいる。
ココロの隙間をわたしの愛で包み込もう。
ドゥガルはそのあと二人で殺してしまえばいい。
そうすればこの城は、わたしたちだけのものになる。
そして楽しく二人で暮らそう。灰色だった長い刻が薔薇色に変わるに違いない。
あぁ、待ち遠しい。
扉を開いて待っていようか?
でもそれではやってきたのが彼じゃなかったときに面倒だ。
レディス様ならこの次元の扉を切り裂きわたしを助けに来てくれる。
だから、待とう。あとほんの少しだけだから・・・・
そして、その扉は間もなく眼前に現れた。
扉はひときわ大きいものだった。
この扉の大きさは明らかに異常だ。魔術のせいか、空間が歪んでる。
「空間を実空間ごと切り裂いてみる。エネルギーのリバースがあるかもしれない。
フィールはわたしの後ろへ。行くよ!」
お父様は再び光の刃をだすと、白のチョークで床にマジックサーキット、
つまりは錬金術による錬成を行う為の魔法陣を描き出した。
今回の対価は残り3つのうち2つのレイブレードカートリッジ。
ほどなく明滅する光の刃。きらめく髪。錬金術で空間と空間を切り裂く力を
剣に与えたのだ。
お父様は両の手でレイブレードをにぎると一気に眼前の両開きの扉の中央の隙間を、
扉と扉の間を切り裂いた。
錠前が断ち切られた音がした、と思う。
と、お父様がそのままの体勢で扉に痛烈な蹴りをくわえた。
その二枚の扉は部屋の中・・・というか深淵の中を漂い、空間の中で消えた。
その深淵は次第にちいさくなってゆき、ゴルフボール大にまでちいさくなったとき、
激しい衝撃を伴って消失した。
あたしはお父様の背中でその衝撃波をやりすごす。
お父様はといえば、扉の鍵を斬ったそのままの体勢でそのすさまじい衝撃を
やりすごしていた。
吹き飛ぶ絨毯。衝撃がおさまったあとは石で出来た回廊がお父様のいた場所を
のぞいて丸くえぐり取られ、回廊自体に大穴をあけていた・・・。
そしてその空間に現れたのは禍禍しい血の色のローブをまとった女ヴェスタルだった。
黒いパンプス、身の丈大の大きな銀の杖を持った黒髪の女。
クローディーヌだった。
彼女はわずかに宙に浮き、そのローブがはためいている。
「やっと・・・会えた。貴方に会えた」
「クローディーヌ・・・」
「長かった。ほんとに長かった。貴方が去ったあとの時間は。
今日という日をどれだけ待ちわびたことか。」
クローディーヌが銀の杖を片手に一歩近づく。
ヴェスタルと騎士の戦いじゃ間合いに入り込まない限り騎士に勝ち目はない。
そう思い、お父様の背中から飛び出し、銀の杖を構えた。
「お父様はやらせないっ!」
歩みを止めて思案顔だった彼女がぽんと手を打つ。
「そう、あなただったのね、レディス様が養女にしたセイダスの娘というのは」
セイダスの・・・娘?
セイダス家は暗黒帝政都市、ラトスラアの領主だったはず。
自治都市ラトスラアで圧制を強いていたレイリア・メル・セイダスを
お父様が討伐。ラトスラア住民からセイダス一族の抹殺を叫ばれてたことは
風の噂で知ってる。・・・あたしがそのセイダスの娘?
記憶が、欠けてるパズルがひとつひとつ埋まっていく。
それじゃなんの特技もない平凡なあたしがヴェスタルだったのは魔女、
レイリアの娘だったから?
「くすくす、思い出せないの?そう言えば記憶喪失という話しだったわね。
あなたは実の親をレディス様によって殺された孤児。
レディスが一刻、ほんとに一刻哀れんで拾われた孤児なのよ、シルフィール。
しかもあなたは実の親が民衆に強いてきたその民の苦しみを知らないし知ろうともしない。
いえ、知らないふりをしてレディス様に甘えている!」
突然に明かされた事実と言う名のショック。思わずかくん、とその場に膝をつく。
「クローディーヌ、それ以上の暴言は許さん!わたしがシルフィールを養女に
したのは決してその場限りの哀れみだけではない!」
「・・・そう、シルフィール、あなたもわたしの邪魔をするのね。
レディス様の寵愛を受けている。許せない。そんなことは許さない!
・・・でもまずは一番憎い姫から。あなたはその次よ。」
クローディーヌの漆黒の髪の毛が真紅に燃え上がり宙を舞う。
彼女の漆黒の長い髪の毛が朱く明滅している。
そしてその明滅が光になった瞬間、クローディーヌの銀の杖を魔法陣が幾重にも
包まれる。そして、杖の先端の形状が槍に変わった。
クローディーヌの足下に魔法陣が浮き上がる。
そしてふっとその場から消えたかのように見えた。
次の瞬間、クローディーヌはエフィメラの枕元に立ち、その銀の槍は部屋の端にある
天蓋付きのベッドの上に眠るエフィメラの幼い胸を一突きした。
「エフィメラっ!」
お父様が駆け寄ろうとするが、クローディーヌは今度はその銀の槍をあたしに向けた。
「消えろ、邪魔者!レディス様はわたしだけのものよ!」
身の丈大の銀の杖を振りかざし、その矛先をあたしに向ける彼女。
幾重もの魔法陣が銀の杖を包み込む。
「ディバイン・・・・ストライカー!!」
一点集中型の砲撃魔法!?
わたしは咄嗟に防御陣をひき、直撃に備える。
刹那、クローディーヌの魔力の砲撃が防御陣に突き刺ささり、
その防御陣はあっさりと砕け散った。
砲撃魔法のほぼ直撃。
手にした銀の杖の宝石が煌めいた気がしたのを最後にあたしの記憶はとぎれた。
「フィールっ!!!」
駆け寄ろうとするお父様の目の前に槍となった銀の杖が突き刺ささり、
行く手を阻む。
「・・・さぁ、これでわたしたち二人だけの世界よ、レディス様。
新しい世界の幕開けよ?二人で暮らしましょう。
ドゥガルは殺してしまえばいい。」
クローディーヌが床に突き刺さった銀の杖を引き抜き、一歩、また一歩とお父様に近寄る。
「・・・もう、終わりにしよう、クローディーヌ。」
お父様は立ち上がり、左手をクローディーヌの肩に手を添える。
クローディーヌは銀の杖を手放し、レディスに寄り添おうとした。
そのとき右手に握ったレイブレードの光の刃がクローディーヌの胸を貫いた。
セイダスの娘がついてきたのは予想外の展開だったが、
過去の話をしてやったら茫然自失した。
だから、予定通り一番憎かったエフィメラ姫をレディス様の前で刺し殺した。
槍で胸を一突き。それで終わり。
あとは小娘だけ。
それもディバインストライカーであっさりと殺してみせた。
もう彼に残っているのはわたしだけ。
そう、これからわたしと愛しのレディス様の生活が始まるのだ。
晴れ晴れとした顔でレディス様のもとに歩み寄る。
悲しむかもしれない。でも彼にはわたしがいるのだ。
ココロの隙間をわたしの愛で包み込もう。
あとは時間がすべてを解決してくれる。
「・・・もう終わりにしよう、クローディーヌ。」
わたしのレディス様ももうこんな人生を終わりにしようと言ってくれている。
悲しみを乗り越えて立ち上がるレディス様。わたしが抱きしめてあげよう。
わたしが手を広げてレディス様が歩み寄ってくれるのを待った。
そして、訪れたのは彼ではなく無情にも光の刃だった。
銀の槍が手から落ちる。
倒れるわたしをレディス様が抱き留めてくれた。
「もうこんなことは終わりだ。クローディーヌ。」
わたしの身体を抱きしめ、暖めてくれているレディス様。
そう、これのためにわたしは生きながらえてきたのかもしれない。
「レディス・・・様、わたし貴方のことをずっと・・・ごほっ」
ごぼっと血のかたまりが口からあふれ出す。
「・・・すまない、クローディーヌ。」
あぁ、これでよかったんだ、これで・・・
そこでわたしはほんとに望んでいたものを手にし、永遠の旅に出た。
第7章へ
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