2「歪な愛」
その夜、わたしは城内に張り巡らせた「結界」の異常に気づき、目を覚ました。
わたしはアリステア・フォン・シルヴァーナ。
ここ、レスティア南部の要とも言えるヴァスティールシティ、セルティア城の
宮廷魔術士団、ヴェスタル・ラ・ギルドのリーダーだ。
ヴェスタル・ラ・ギルドはセルティア城の主、エルフィア様を守り、
支援する為に存在する。
代々このギルドのリーダーはエルフィア様、つまりはクレスト家の
遠縁に当たるシレーヌ公家が司っており、それが暗黙の了解となっていた。
いま、わたしがリーダーたる理由はシレーヌ公家に適任者がいないからに他ならない。
わたしとてリーダを務めるからにはそれなりの力量を持った
ヴェスタルであることは間違いない。
だが、荷が重過ぎる・・・というのが正直なところだ。
レスティア連邦評議会の良心ともいうべきエルフィア様に敵対する勢力は少なくない。
エルフィア様をお守りする「麗騎士」がいない今はすべてギルドが、そして
わたしが外敵を排除し、そしてエルフィア様をお守りしなければならないのだ。
「・・・城内の結界が消えている・・?」
そう、ギルドは錬金術と魔術により「結界」と呼ばれる魔力障壁を構成し、城自体を
守っている。
そしてエルフィア様のおられる場所はわたしが編み上げたまた別な結界によって二重に
守られているのだ。だがその夜、わたしが気づいたときにはすでにその城を守るべき
結界が消えていたのだ。非常事態であることは間違いない。
エルフィア様を守る結界は健在なのを確認し、傍らにある身の丈大の銀の杖を手に
レースのカーテン越しに城内の様子を探る。
「灯火が消えている・・・」
城内の灯火はいわゆるランプや電灯ではなく、ギルドが生成した魔力の光によるものだ。
灯火が消えているということはギルド自体になにかがあったことを意味する。
外敵によるものか、それとも・・・考えたくはないが内乱か。
「とにかくエルフィア様をお守りしなければ・・・」
わたしは素早く着衣を正し、ローブを纏いながらドアに歩み寄った。
ドアノブをまわそうとした時、忍び寄る足音に気が付いた。
「いいか、相手は女とはいえ油断するなよ」
足音の数は数人。
カチリ
銃のセフティーを外す音がかすかに聞こえた。
その「相手」がわたしであることは容易に想像が付いた。
城内のこのフロアはごく一部の人間を除き、立ち入ることを禁じられている。
足音が近づいてくる。
わたしはドアから離れると素早くカーテンの裏側に廻りこみ、
扉をあけてバルコニーに出た。
風がオーバースカートのトレーンと少々長めな金髪がひるがえる。
よし、これならすぐに術を編みあげることが出来る。
地・水・火・風・闇・光、そして刻。
これらの力を術式によってマテライズ、顕現化させるのがいわゆる魔術。
なにもない状態でも術を編むことはできるが、その場に編もうとする
その「力」があったほうがより素早く、
強力な魔術を行使できるのだ。
わたしは素早く杖を両手で持ち、詠唱を始めた。
カチン、とドアの鍵が開く音がする。
鍵を持っているということは・・・やはり内乱?
次の瞬間、両開きのドアが勢い良く開き、数人の銃を持った男達が
部屋になだれ込み、ベッドを取り囲むと同時に撃ち始めた!
サイレンサーを使っているのか、銃の音はごく小さい。
だが、マズルフラッシュが部屋を焼く。
「! いないぞ!どこだ!?」
そこへ風がバルコニーより吹き込み、穴だらけになったベッドから
幾重にも羽根が舞いあがった。
「外か!?」
男共が銃を慌ててバルコニーに向けるがもう遅い。詠唱は既に終えている。
金色の髪が光り輝く。
「風よ、我が意に従え!身を切り裂く刃となれっ! エアブレイド!」
目に見えぬ刃が轟音と共に扉を粉々にし、調度品を、男たちを、
調度品を、部屋の中にある全てを切り裂く。反撃することも叶わず倒れゆく男たち。
いまの破砕音で気づかれただろう。
時は一刻を争う。わたしはリーダ格と思しき男を一瞥し、驚愕した。
「近衛・・・兵・・・。」
内乱。恐らくは手引きしているのは大公のドゥガル。
危惧した通りになってしまった。
ドアから廊下に出ると廊下には月明かりが差し込んでいた。
素早く杖で魔方陣を描き、詠唱を始める。
「闇よ、我が前を・・・」
と、その時、わたしの身体が壁まではじけ飛んだ紡ぎかけていた術は霧散し、
行き場を失った力が逆流する。
「ぐっ。。。かはっ。。。ごほっけほっ・・・
エルフィア様を守る結界が歪み、そのゆがみが術者たるわたしに
フラッシュバックしたのだ。
「長くは、持たない・・・?」
杖を片手になんとか起き上がる。わたしの結界を破れるような
力の持ち主だとすれば、その力はわたしと均衡するか、、あるいは凌ぐ。
ひとりの女ヴェスタルの顔が思い浮かんだ。
結界が歪み、フラッシュバックまでしてくるということはあまりにも
時間がなさすぎる。
エルフィア様の元に駆けつけても間に合わないだろう。
「・・・ならば・・・!」
わたしは再び術を紡いだ。
黒き闇、ダーク・ミスト。
わだかまる闇で身を包み身を隠したわたしはあの方の元へと駆け出した。
途中、更に術を紡いで爆焔を次々に放ち、城内を混乱させる。
回廊を闇とともに駆ける。
先ほど攻撃と混乱を煽るために放った爆焔のおかげで場内の警備は
命令系統が混乱して統率が取れていない。だが、その混乱も一時的なものだろう。
しかるべき統率者が現れる前にあの方達の元へ。
そしてお守りしなければ。
回廊を駆け抜け、中央階段までたどりついたとき、銃を持った
兵士の一団と出くわした。
突然の闇に視界を奪われ、混乱し、悲鳴を上げる兵士たち。
そう。わたしを中心に半径30mほどは深い闇に包まれている。
「落ち着け!ヴェスタルだ!撃て!!」
冷静さを取り戻した兵士の一人が深い闇の中、悲鳴のように声をあげた。
カチリとまばらにおちるセフティーの音。
わたしは階段の手すりに腰を乗せ、一気に滑り降りる。
まばらに響く銃声。そして悲鳴。あの状況で撃てば同士討ちは免れないだろう。
まだ兵士たちは混乱している。今がチャンスだ。
1階のホールへと滑り降りつつ術をつむぐ。
わたしは続けざまに爆焔を3発、ホールの正面扉と今し方降りてきた階段、
そして詰め所へと続く廊下に放った。轟音とともに扉と階段は吹き飛ぶ。
ほどなく、爆焔から逃れた兵士たちがろくに照準もせず発砲してくる!
だが、照準も定まらず深い闇に向けて撃った銃はそうそう当るものではない。
躊躇せず、左手の回廊に向けてわたしは駆け出した。
追っ手を撒いたわたしは城の離れにある屋敷になんとかたどりついた。
敵の当面の目標はエルフィア様とわたし、らしい。
幸い、この離れの周囲には追っ手らしきものはまだ見当たらないが、
それも時間の問題だろう。闇を解放し、ドアをノックする。
「ジュリアス様、ジュリアス様、ご無事でいらっしゃいますか?
アリステアでございます。ジュリアス様!」
ほどなく、カチリと鍵のあく音がして彼、ジュリアス様が顔を出した。
「アリス、無事だったか」
響き渡るサイレンの音。
「アリス、状況はどうなっている?」
「城の結界がなくなっています。わたしの寝室に押し寄せたものたちは
近衛兵でした。
エルフィア様はいまのところわたしが張った結界の中にいらっしゃいますが・・・」
そこまでお伝えしたとき、城内に空間のゆがむ音が轟いた。
思わずひざをつき倒れこむわたし。
「うぐっ、ごほっ。。。」
血が血の塊が口からこぼれおちる。
「アリス!」
「ぐっ、、、いま、エルフィア様をお守りする最後の結界が・・・破られました。
ジュリアス様、わたしが手引き致します。
申し訳ございません。エルフィア様はもう間に合いません。
せめてジュリアス様と姫様だけでもお逃げください。
でなければレディス様に申し訳がたちません。」
「やはりこうなってしまったか。」
「申し訳ございません、ジュリアス様。わたしの力が及ばぬばかりに・・・」
「よい、アリス。お前のせいではない。物事にはすべて必然性があるのだ」
「はい。・・・さあ、ジュリアス様、早くお支度を。
追っ手がくるのはもう時間の問題です」
「わかっている。だがアリス、私は妹を、エフィメラをあのまま
ほおっておくわけにはいかないのだ。
すでに技術のすべてはエフィメラの深層心理下に封印した。
あとは表層意識を呼び戻さねばならないのだ。
・・・・アリス、10分でいい。時間を稼げるか?」
そう、兄弟同じくレディス様同様。いつだってこのお方はそうなのだ。
己が責務を優先させる。
「・・・わかりました。アリステア・フォン・シルヴァーナ、
この命に代えてもお二人をお守りいたします。」
「すまない・・・アリス。」
「さあ、ジュリアス様は早くエフィメラ様を!」
そういうとわたしは屋敷のドアを閉め、術を紡ぎだした。
杖を振りかざし、魔方陣を描く。
魔力障壁、結界を敷きたいところだが、術を編む準備と時間が足りない。
それに退路も確保しなければならない
「イリュージョン!」
屋敷の前に屋敷の幻影が現れる。攻撃を受けても着弾点がずれれば
それだけ被害も少なくて済む。それに幻影があれば気づかれない限り
退路も確保しやすい。
幻影が像として実体化し終えたとき、兵士たちが現れた。
「いたぞ、シルヴァーナだ!撃てっ!!」
兵士は続々と増えてくる。
幸いまだ幻影に気づかれた様子もなく、着弾点はずれてる。
さっと魔方陣をさらに描いた。
わたしのまわりに無数の火球が現れる。
「火よ、敵をなぎ払えっ!ファイアクラスター!!」
掛け声とともに無数の火球が兵士達に襲いかかる。
そして着弾、爆焔で群れた兵士たちざっと10数人をなぎ倒す。
だがそれだけではまだ足りない。
「舞え、燃ゆる妖精よ!」
銀の杖の持ち手をかえ、いままでとは逆向きに構える。
魔法陣が現れ、杖の端に出来上がった光球ができあがる。
「いけっ、フェアリークラスター!」
放った反動で杖の先が跳ね上がり、足が後方へずり下がる。
光球は途中まで放物線を描き・・・そして敵兵士達に
向かって軌道を変える。
驚きの表情を浮かべる兵士達。そして次に浮かんだ表情は恐怖。
着弾し爆焔をもって兵士達を吹き飛ばした。
だが、まだ足りない!
さらに光球を放つ。
「こ、これがヴェスタル!?う、うわぁ〜!!!」
30名はいたであろう兵士達はファイアクラスターと
フェアリークラスターの攻撃で銃を向けているのはもう残り数名になっている。
このままいけるか!?
そのとき兵士の一人が声を上げた。
「ええいっ!重火器を!屋敷ごと燃やしてかまわん!
ヴェスタルを、クローディーヌさまを呼べっ!」
ちっ、クローディーヌ!?やはりギルドの中で反旗を翻したものがいたか!
兵士はともかくとして同じヴェスタルが相手ではこのままでは持ちこたえられない。
なんとしてもお二人をお守りせねば!
クローディーヌの禍禍しい気配は近づきつつある。
本来であれば結界を敷いてお守りするのがこの場合最善なのだが、
結界を敷くにはもう準備をしてる時間も術を編む時間もない。
けれどいま残り少ない兵士がもってるライフルでなく、重火器をもってこられたら
いかに幻影魔法でごまかしているとはいえ屋敷の中にいるジュリアス様と
エフィメラ姫に危害が及ばないとも限らない。
ヴェスタルの攻撃は多分、相殺できる。
けれど重火器のそれは防げない。
わたしは自分の左腕を見た。
間に合うか??
でもやるしかないっ!
わたしは杖を右手に持ち替え、左手を天に差し出し、術を編んだ。
「「我が腕と引き換えに」燃え盛る焔も通さぬ壁と成せ!」
そう、わたしは左腕と交換に魔力障壁を編み上げた。
薄いピンク色のヴェールが展開し障壁ができあがる。
兵士のライフルの銃弾が跳ね返りはじめる。
それと同時に見えない力によってわたしの左腕は・・・
むしりとられ、光の粒となって消えた。
「ああああああああっ・・・くっぐぐぐ。。。。」
あまりの激痛に気が遠くなる。
膝を地面につき、血の滴る二の腕に目をやる。
「・・・こんなものでも代価になったの・・・・か・・・くっ、、ぐぐ。。。」
だが、、、これでしばらくは時間を稼げる。
わたしはちらりと結界にたららを踏む兵士たちに目をやると
扉をあけ、屋敷の中に入った。
ジュリアス様はエフィメラ様の表層意識を戻すべく、
術を編み上げていた。
ぽたり、ぽたりと滴り落ちる・・・血。その音に気づいたのか、
ジュリアス様は術がひと段落した時点でわたしのほうに目をやり、
驚きの表情を見せた。
「アリス!その腕は!」
「結界を・・・張りました。これでしばらくは時間を・・・稼げます。
少なくとも、一般兵士は手出し出来ません。」
意識が少し遠のき、柱によりかかったまま座り込むわたし。
「結界だと!?そんな準備も術を編む時間もなかっただろう!まさか、その腕は!」
「ええ、準備をしてる時間はありませんでした。
ですから・・・わたしの腕と引き換えに・・・」
「等価交換か!なんて馬鹿なことを!」
そう、等価交換。
結界・魔力障壁を構成するには一定の段取りが必要になる。
風や焔を操るのとはわけが違う。防御結界は非常に高度な魔術と
錬金術の結晶なのだ。
だから、通常結界を張る際は、、、例えば、城を守る結界であれば
ギルドのヴェスタルが緻密な魔方陣を赤い粉で描き、数人がかりで術を編み上げる。
エルフィア様をお守りする結界も、わたしが事前に魔方陣の準備をし、
就寝前に時間を費やして毎晩用意している。
だが、先ほどはそんな時間も準備も行う余裕などなかった。
通常ヴェスタルが行使する魔術には代価など必要としない。
相応の代価とセンスを要求される錬金術とは根本的に異なるのだ。
けれど、必要としないだけで、あって困るものではないのだ。
魔方陣を描く労力、術を編むための道具だっていわば代価のひとつだ。
だから、わたしは結界を張るという魔術の代価として、魔方陣や道具ではなく、、、
わたし自身の腕を代価として提供することで結界を構築したのだ。
「ジュリアス様、いま屋敷に張られてる結界は正式な手順を踏んで
張ったものではありません。わたしの腕を代価として編み上げたものです。
あれしきの代価がどれほどの価値があるものなのか。
結界強度は正直申しましてもどの程度あるのか分かりかねます。
早く、姫様を、エフィメラ様を・・・敵に与したヴェスタルの
相手はわたしがします。」
「アリス・・・すまない。」
「いいんです。わたしは・・・レディス様のお留守をお守りしているだけです。」
その瞬間、わたしの身体は壁まではじけ飛んだ。
「がはっ・・・ごほっ、けほっ、、、」
また血の塊が口からあふれ出る。そしてこめかみから流れ落ちる、、、血。
血管が切れたのだろう。
「アリス!」
駆け寄ってくださるジュリアス様。
結界への直接攻撃か。一般兵には結界を破る術はない。
錬金術を用いれば結界を破ることも不可能ではないが、
それには相応の時間がかかる。とすれば、もうクローディーヌが
やってきたということか。
正式な手順で編み上げた結界すら破ったクローディーヌ。
やはりあれしきの代価ではもたないか・・・
「ジュリアス様・・・申し訳ありません。
もう結界はあまりもたないようです。
わたしは、、、ヴェスタルを、ドゥガルに与したヴェスタルの相手を
してまいります。時間を少しでも稼ぎます・・。さあ、早くエフィメラ様を!」
杖を握り締め、立ち上がる。意識が遠のきそうになるが、
唇を強く噛み締め、意識を保つ。
滴り落ちる、血。
「ジュリアス様!さあ!」
一瞬の躊躇の後、ジュリアス様は寝台に眠るエフィメラ様の元に駆け寄り、
また術を編み上げ始めた。表層心理を呼び戻す、最後のプロセス。
わたしはそれを見届けると、身体を引きずるように・・・
扉の向こうへと歩んだ。
わたしには愛するレディス様の留守を守らねばならぬ理由が、ある。
灯火の消えた城の中庭。黒いパンプスに血の色のローブ、身の丈以上もある
銀の杖を携え、彼女は現れた。
「くくくっ無様ね、アリステア! ギルドリーダーの名が聞いて泣かせるわ」
結界の向こうに兵士どもを従え、わたしの前に立ちふさがるのは・・・
クローディーヌ。
ヴェスタル・ラ・ギルドでもわたしに並ぶ最高位のヴェスタルだ。そして、今は、敵。
「ギルドの掟を、エルフィア様をお守りする役割を忘れたの、クローディーヌ!」
クローディーヌは長い黒髪をかきあげ、月夜明かりにさらした。
「レディス様はわたしのもの。・・・目ざわりだったのよ、貴女がね、アリステア!
ギルドリーダーを選抜するときもそうだった!
実力ではあきらかにわたしの方が上だったのにギルドリーダーに選ばれたのは
貴女だった!」
杖が光を帯び、煌く。
「わからないの?なぜあなたがギルドリーダーになれなかったのかを。
自分の行動を顧みなさい!それにそんなことをしても彼は決して喜ばない!」
「レディス様は今度こそ必ず戻ってくる!
アリステア、貴女のせいで彼は連邦評議会に与せねばならなくなった!
すべて、すべてすべて貴女のせいよ!
貴女がいなければレディス様はずっとここにいたのに!
アリステア、わたしはあの方が戻ってくるのなら、一緒にいれるのなら
わたしはどんなことでもしてみせる!」
クローディーヌが銀の杖をふるうと彼女を包み込むように魔法陣ができあがる。
無数の火球がその魔法陣からクローディーヌのまわりに浮かび上がる。
そして、杖の煌きにあわせ、わたしのほうへ、結界へと押し寄せる。
結界にこれ以上負担をかけるわけにはいかない!
素早く詠唱し、銀の杖で魔方陣を描き出す。
「ちぃっ!」
地面に現れた地割れと光とともに大量の水が火球を相殺する!
「クローディーヌ!ジュリアス様とエフィメラ様まで危険にさらす気なの!」
「レディス様さえいれば、あの方さえいてくれるのなら!」
「あなた自分がなにをして何を言ってるかわかってるの!?
わからないの!?そんなことをしてもレディス様は喜ばない!」
「のうのうとギルドマスターの地位にいた貴女なんかになにがわかるっていうの!」
「少なくとも貴女よりは冷静な判断をわたしは下せる。
だから、レディス様のためにもわたしはジュリアス様とエフィメラ様を守る!」
「戯れ言を!」
だめだ。クローディーヌは完全に我を忘れている。
愛する気持ちがこんなかたちに歪むとは。
でも彼を愛する気持ちはわたしもかわらない!
だから彼がしたであろうこと、麗騎士としての役目の代わりをわたしがする必要がある!
時間を、、、とにかく時間を稼がねば・・・。
術を編む。
ヴェスタル同士、ことに高位のヴェスタル同士の戦いは一瞬の躊躇が命取りとなる。
お二人をお守りするのだっ!!
わたしは声高らかに詠唱をした。
「心は煌く光に満ちている。
血潮は母なる海で身体は鏡。
往く度の戦場を乗り越え、そして不敗。
我は・・・ギルドの王を冠す者なり!!
約束された勝利をここに!
舞え!あまた煌く星の力よ!!
焼き尽くせ、その紅蓮の焔の刃を持って!
スターライトフォールっ!!!」
幾重にも取り巻く魔法陣。金髪の髪の毛が光り輝き、銀の杖に光が収縮し、煌く。
そして、わたしが杖を振り下ろすと同時に光が紅蓮の焔が辺りを埋め尽くした。
轟音とともに屋敷の一部が吹き飛び、焔が収縮したあとには兵士
たちの姿はなく、クレーターだけが残っていた。
・・・いや、クレーターの中心にいるのは・・・クローディーヌ。
防御陣を咄嗟に引いたのだろう、けれど彼女とて無傷ではない。
片ひざをつき、肩で荒く息をしている。
「・・・ギルドマスターの力がこれほどのものとはね。
でもわたしはあの方のために立ち上がったの!
貴女になんかは決して負けない!」
今度はクローディーヌが呪文の詠唱を始める。
虫達の鳴き声が一斉に止み、静寂と彼女の詠唱だけが高らかに響き渡った。
クレーター状になった地面から地鳴りがし、岩が次々と浮き上がる。
彼女の漆黒の長い髪の毛が朱く明滅している。
そしてその明滅が光になった瞬間、クローディーヌの銀の杖を魔法陣が幾重にも
折り重なる。そして、杖の先端の形状が槍に変わった。
彼女の得意とする砲撃魔法だ。
「ディバインストライカー!!!」
ただの砲撃魔法ではない、一点集中型の強力な砲撃魔法だ。
結界を破るつもりか!
間に合うか!?
防御陣をひきつつ結界とクローディーヌの間に割って入り、
直撃に耐える。
刹那、クローディーヌの魔力の砲撃が防御陣に突き刺さった。
砲撃魔法と言ってもクローディーヌのそれはレールキャンンのそれより
粒子ビーム砲のそれに近い。その威力は瞬間的なものではなく
ある程度、継続的なものだ。
防御陣が激しい火花を散らし、お互いの魔力が拮抗していることを示す。
「レディス様の為にっ!!!あの方が帰ってくるようにっ!!」
それは一瞬の出来事だった。
砲撃魔法が終わった瞬間、槍となった銀の杖を持ち、彼女は瞬時に
間合いを詰めてきた。
白兵戦!?
まずい、この防御陣では魔力を帯びた物理攻撃は防げない!
そして槍は防御陣を貫ぬかれた瞬間身をひねり、槍をかわす。
すぱっとネグリジェの胸の辺りを切り裂かれ、下着があわらになる。
くっ!
バックステップで距離をとり、静寂の中、声高らかに反撃の砲撃魔法を唱える。
「バスター!」
だが、今度は彼女が防御陣をひく。
直撃に見えたが、角度を微妙にそらし、その砲撃魔法ははじき飛ばされ
はるか後方の城壁に直撃し、城壁をえぐり取った。
戦闘では彼女の方に分があるか!?
やはり、強い。
けれど御守りせねばならない。
クローディーヌは杖を持ちかえる。
髪の毛が朱く染まり強い光を放つ。再び幾重もの魔法陣に銀の杖を覆う。
銀の杖は形状が刃渡り1mはあろうかという鎌に変化していた。
「ハーケンスラッシュ!」
次の瞬間、鎌の刃の部分が光を帯び、刃が回転しながら襲いかかってきた。
引き付けて、ぎりぎりでそれをかわす。
ネグリジェの裾が切り裂かれる。
だが、それに気をとられている間にクローディーヌは
一気に間合いを詰め、斬りかかってくる。
斬撃を銀の杖で受け止める。
「小癪な。ちぃ!」
ぱっと間合いををとるクローディーヌ。
杖がまた魔法陣に包まれ、今度は槍の姿となり再び間合いを詰めてくる。
槍を使った攻撃のそれは素人のそれとは明らかに違う。
くっ!白兵戦でも勝ち目はない!?
ここまで実力に差があるとは!
悔しいけど捌ききれないっ。
次に槍が心臓を狙ってきたとき、わたしは地面を蹴り、屋敷の屋根まで飛び退いた。
「ちょこまかと!往け、雷光の槍!」
クローディーヌの回りにいくつもの槍の刃のカタチをしたエネルギー体が浮かび上がる。
「ディバインランサー!」
フロート(浮遊)の術式を編み、その攻撃をかわす。
だが、通り過ぎた雷光の槍は大きく弧を描いてあとをどこまでも追尾してくる!
「ここで負けるわけにはっ!」
銀の杖を振るい、空中で回避行動をとりながら素早く魔法陣を描き出す。
わたしの回りを無数の光球が浮かび上がる。
「これでっ!」
追尾してくる雷光の槍はわたしのまわりに浮かび上がった無数の光球に
行く手を阻まれ、爆発する。
「往け!」
護りにはいっていては勝てない。銀の杖を振りかざす。
その残った10数個の光球がクローディーヌ目指して突き進む。
土煙がもうもうと立ち上がる。直撃した、と思う。
だが、これだけでは終わらせない!
杖をクローディーヌに向け、詠唱をする。
銀の杖が3重の魔法陣に包まれる。
「クラストバスター!」
先ほどクローディーヌが放った砲撃魔法と同じ一点集中型の砲撃魔法だ。
防御陣を展開する余裕もなかったはずだ。直撃、したと思う。
けれど、その土煙がはれたその場所にはクローディーヌはいない。
大きなクレーターが残るのみ。
どこへ!?
「終わりよ!」
瞬間的に移動したのか、クローディーヌの声が真後ろから聞こえる。
振り返るとそこには槍状に変化した杖の矛先が大きく、そして金色に煌めいていた。
白兵戦魔法!まずいっ!
振り向きざまに防御陣をひく。
次の瞬間、金色に煌めく巨大な槍の矛先が防御陣にあたり、火花を散らす。
護りきれない!咄嗟の判断で防御陣を前方集中型、ラウンドシールドに切り替える!
「貫け、ストライカー!」
クローディーヌが追撃魔法を使った。
拮抗していたラウンドシールドと金色の矛先だったが、
クローディーヌが追撃魔法をつかった瞬間、矛先は煌めきを増し、
金色に輝く翼状のスタビライザーが展開し、勢いを増して一気に
ラウンドシールドごとわたしの胸を貫いた。
「かはっ」
ごぼっと血のかたまりが口からこぼれ落ちる。
「レディス・・・さま・・・・力及ばず・・・」
クローディーヌが胸にを貫いた金色に煌めく矛先にさらに魔力を
注ぎ込む。「消えなさいっ!」
最後に見えたのは胸を貫かれ、大きな風穴があいたわたしの身体と
喜びに勇むクローディーヌの顔だった。
そして貫かれ、胸に大穴をあけられたわたしの身体は魔力の支えを無くし
地面へとゆっくりと墜ちていった・・・・。
「これで邪魔者は消えた!」
そこで麗騎士を慕い、麗騎士の代わり一人で戦ったヴェスタルは息絶えた。
「あははは・・・。」
恐る恐るといった感じで近づく兵士達。
「クローディーヌ様・・・?」
「くっくっくっ・・・これで、これであの方は戻ってくる!」
アリステアを貫いた槍を引き抜くと銀の杖は元の形状に戻った。
いまだまがまがしい朱い光を放つ長髪。
「くっくっく・・・あーはっはっはっは・・・」
狂ったかのように笑い続けるクローディーヌ。
クローディーヌを追ってやってきたひとりの兵士が恐る恐る、声をかける。
「ク、クローディーヌ様、その、結界は・・・?」
「・・・うるさいわね。あなた、殺して欲しいの?」
勝利の余韻にひたっていたところを邪魔され、
ギロリと兵士をにらみつけるクローディーヌ。
「いえ、申し訳ございません!!」
「いまディスペルする(解く)。下がってなさい。」
また髪の毛が朱く染まり強い光を放つ。再び幾重もの魔法陣に銀の杖を覆う。
銀の杖は形状が再び刃渡り1mはあろうかという鎌に変化していた。
彼女は詠唱し、足下に魔法陣が浮かび上がる。
「消えよっ!」
彼女が鎌を振るうと凛とした音があたりに響き渡った。
刹那、アリステアの忘れ形見だった薄いピンク色のヴェールで包まれた
結界は音を立てて崩れ去った。
「よ、よし、突入!」
兵士達が屋敷のドアを蹴り開け、ライフルを構えて突入する。
「こちらアントン(A班)、ジュリアス邸を制圧完了。
ジュリアス卿、エフィメラ姫ともに無事身柄を確保。」
カツカツと革靴の音が石畳に響く。
髪をかき上げ、黒い革靴のほうに目をやった。
いやらしいきらめきを放つ単眼鏡。
「よくやった、クローディーヌ。」
「ドゥガル・・・。あとは部屋で待たせてもらうわ。」
「そうしたいだろうが、そうもいかないのだ。
ジュリアス卿とエフィメラ姫は隔離する必要がある。
エフィメラ姫の身柄拘束と監視を頼む。
情報が確かなら一切の抵抗はしないはずだ。
ジュリアス卿はこちらで幽閉させてもらう。
・・・姫が側にいた方がレディス卿との遭遇確率もあがると思うがどうかね?」
ドゥガルは単眼鏡をはずすと布でレンズを拭きながら指摘してきた。
姫は邪魔だけど確かにレディス様は真っ先に姫を助けに来るだろう。
それならばドゥガルの言うとおりにするのも悪くはない。
むしろ僥倖だ。
「・・・仕方ないわね。そこの!姫を私の部屋へ運んで。」
「は、承知致しました!」
屋敷の前のクレーターを、崩れかけた城壁を見て語りかけてくるドゥガル。
「まったくお前達ヴェスタルのやることはひとつひとつが目立ちすぎる。
エルフィア妃を護る裏方ならば裏方に徹するべきじゃないのか?」
「・・・知らないわね、そんなこと。今のわたしには関係ない。」
こいつと話していると癇に障る。
でもあと少しの辛抱だ。
じきにレディス様に会える。
そう思えば嫌な会話も少しはマシに思えたが、長居しても愚痴られるだけで
なんの特もないと判断し、わたしは自分の部屋に足を向けた。
第3章へ
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