1「麗騎士」
1 「麗騎士」
今日も外は暑そうだ。
気温、40度は軽く越えてるんじゃないだろうか?
ここヴァスティールシティの北西にある宿場町、「エルディ」のまわりは広く、広大な
砂漠、砂海・・つまりは砂の海が広がっている。
街中ならともかく、一歩でも街をでようものなら外気温は50度やそこらじゃすまない。
だから、ここ「エルディ」に住む人間は日中、ことに日が一番高いこの時間には
出歩いたりしない。
そう、出歩いたりはしないのだ。
けれど、あたしはいま「駅」に向かって水筒をショルダーバッグに、日傘を差して
歩いている。
理由?それにはちょっとだけ時間をさかのぼる必要があるかな。
あたしの名前はシルフィール。
シルフィール・ファルク・シュナイザー。
ヴァスティール地方でも指折りの名門、シュナイザー家の長女だ。
漆黒の瞳、つややかな黒の長髪をひとつにゆったあたしは、童顔であるがゆえに
いつも実年齢よりも2、3歳は若く見られるけどこれでも一応は十三歳。
未だに友人達と比べてもぺったんこな幼いからだが少々のコンプレックスかなぁ?
そして、あたしは五年前から以前の記憶が抜け落ちている。
記憶喪失といえば話は早いかな?いまあるもっとも古い記憶はお父様に養女として
迎え入れてもらったときのこと。
覚えていたのは自分のシルフィールという名前とあたしがヴェスタル、つまりは
−魔術師−の見習いで簡単な魔術であれば行使できるということだけ。
きっとなにかあったんだとは思うけど、過ぎ去った過去にいつまでも
しがみついていてもしかたない。
あたしは前向きで元気だけが取り柄の女の子なんだから。
そんなあたしは世間を学ぶためという名目であたしはここ、宿場町エルディの
マイヤーおじさんのお店でただいま丁稚奉公中。お父様とは仕事上の都合ってやつで、
もう幾年も会ってない。
でも、格式ばった礼儀作法とかにしばられてない今の生活に不自由はない。
あたしのお父様は「麗騎士」ことロードス・ファルクの息子、「二代目麗騎士」。
さらには剣士としての最高の称号、「剣聖位」を持つ。
銀髪翡眼、長身痩身にして長髪の超あたし的に美形でしかも優しくそして厳しい。
文句なし、自慢の父だ。
でも、さっき言ったとおり、お父様いまここに、いない。
お父様と一緒に暮らしたのは実質二年ほど。お父様は北方の中枢都市レスティアの
連邦評議会の議員として首都、レスティアで仕事をしてると風の便りで聞いた。
そしてあたしはお父様が幼少の頃からお世話になっていたというマイヤーおじさま夫妻
のもとに身を寄せているのだ。
マイヤーおじさんはリサイクルショップを経営している。
ひとことで言えばリサイクルショップ。けど、その取扱商品の幅はとてつもなく広い。
家庭用の雑貨品はもとより、機動ユニットなんかも取り扱ってる。それも軍用のも。
あ、機動ユニットというのは二足ないし四足歩行が出来て、人の手に相当するアームを
持っていて外燃機関、ないし内燃機関によって行動を可能にする汎用的な作業が出来る
搭乗型のロボットのこと。
・・・まぁ、ここにあるものはほんとに動くのかどうかなんて知らないし、
当局の目があるから軍用機動ユニットに積載する兵装の類は取り扱ってないけどね。
あたしの目から見ればただのガラクタにしか見えないけれど、
みる人が見れば、それなりの価値はあるらしく、日中の
この時間帯を除けば店は、まぁ繁盛してると言っていいだろう。
いつものお昼ごはん。
あたしはお店の入り口のガラス戸にかかってるプレートをOpenからClosedにひっくり返し、
食器と料理が並ぶダイニングにやってきた。
「あれ?おばさん、マイヤーおじさんは?」
「まだいじってるようね。シルフィ、悪いんだけど呼んできてくれる?」
「はーい」
元気よく答えるとお店の奥の方に向かって駆け出した。
格納庫から重機が動く音が聞こえる。
多分、機動ユニットを動かしてるんだろう。
格納庫にはいり、タラップを一段飛ばしで駆け上って
機動ユニットの動作テストをしていたおじさんに壁に引っかけてあったメガホンを取ると
めいいっぱい大きな声でおじさんに声を掛けた。
「マイヤーおじさん〜!お昼ご飯の時間よー!!!」
空調の効きづらい格納庫は蒸し暑い。
ほんのわずかの間に汗がしたたり落ちる。
機動ユニットはぎこちなくこちらへ向きなおりハッチが開いた。
「おぉ、シルフィ、もうそんな時間か?」
左足の太もものストラップに挟み込んだ小さな銀の杖を抜き取り、振るう。
浮遊の魔法だ。
ごく初歩的な魔術。
あたしはハッチの前まで進め、マイヤーおじさんを叱った。
「そんな時間か?じゃなくてとっくにそんな時間ですー。」
「わかったわかった。いまこいつをハンガーにのせるよ。ちょっと待ってておくれ」
そういうとまたハッチが閉じ、機動ユニットは相変わらずぎこちない動きでハンガー
に向かってゆっくりと歩く。
こんな歩くだけで精一杯のモノが売り物になるんだから世も末だ。
もっとも重機として考えれば自由に動く手足のある機動ユニットは汎用性に優れてるし
優秀といえなくもない。
ただ、日々進歩を続ける飛装帆船(ひそうはんせん)に比べるとその進化の度合いは
明らかに低迷している。
10数年前までは数年後にはそれこそ一家庭に一機は機動ユニットがある生活になるだろうと
言われていたと聞く。
でも現実はひどいもので、軍と建築・土木の分野の一部で使われてるにすぎない。
理由はいくつかあるが、そのひとつの理由は機動ユニットのコストにあると言われている。
要するに高すぎるのだ。さらにそれに見合うタスクをこなす、つまりは減価償却ができるとは
言いがたいのだ。
よって資金が贅純な軍とその払い下げを入手した建築・土木の分野の一部でしか
使われていないのだ。
では減価償却が難しい機動ユニットがなぜ軍に配備されているか。
機動ユニットより遥かな重砲を装備できる戦車は機動ユニットとよく比較される。
コストは機動ユニットのほうが高いうえに戦車との戦いになれば重砲を装備した戦車に
は機動ユニットが勝つことはよほどの熟練者でないかぎり難しい。
しかし、自由に動かすことの出来る手足を持つ機動ユニットはキャタピラ走行しかできない
戦車では侵入不可能な悪路も走破できるし、その自由に動かせる手をつかって短時間で
土木作業を行い陣地を築くことが出来る。
要するに、建築・土木作業に向いているけれど高価すぎるシロモノ、というのがいまの
機動ユニットなのだ。
実際、お客様のほとんどは汎用性のある土木作業用重機として整備の終わった
機動ユニットを買っていく。
ほどなくマイヤーおじさんの操縦する機動ユニットはハンガーに固定され、
タラップがコクピットに近づいてゆく。そこにハッチが開いた。
マイヤーおじさんは出力を落とすとタラップに飛び移った。
タラップからハンガーロックされた機動ユニットを見ながら、おじさんは独り言をしゃべる。
「まだ左足の動きが渋いな」
あたしはその独り言を聞いてこう答えた
「ほんとに左足だけ?あんなにぎこちないのに?」
「この世代の機動ユニットの動きはみんなこんなもんさ。」
そう言うとおじさんは首に巻いたタオルで顔をぬぐった。
「さあ、昼ご飯を食べに行こう。」
「はーい。」
あたしはマイヤーおじさんの手をつなぐとダイニングに向かって歩き出した。
広い格納庫と違って店舗と居住スペースはきちんと空調が効いてるから
外がどんなに暑くても汗がふきだしたりはしない。
「はー、やっぱり格納庫は暑いわねー。こっちは涼しい〜。極楽〜。」
「あれでも空調をかけてるんだがね」
「屋根の断熱が足りてないのよ、きっと。」
そう言いながら椅子に腰掛け、既に腰掛けているおじさんたちと並ぶ。
「それじゃ、いただきます」
サラダにシチューにパンにデザート。
よく冷えたティーポットから紅茶をカップに注ぐ。
注ぎ終わるのを待って、おじさんがあたしに話しかけてきた。
「シルフィ、すまないが三時半に駅にお客さんを迎えに行って欲しいんだ。」
「三時半!?なんでまたそんな暑い時間帯に・・・・」
「いろいろと事情があってね。頼めるかな?シルフィ」
「はい、わかりました。・・・・で、で、どんな方なの、おじさん?」
興味は美味しい昼ご飯ではなく既にそのお客さんに・・・。
「会えばわかるよ」
その後はプレートをOpenにひっくり返し、お店のカウンターでいつものように
お客様のご来店を待っていた。
ただし日射しの一番暑い時間帯にやってくるというある意味酔狂な
お客さんのことをいろいろと想像しながらだけど。
ぼーん。ぼーん、ぼーん・・・・
柱時計が3時を告げる。
あたしは席を立ち、柱時計の下までてくてくと歩いた。
柱時計から垂れ下がる鎖をつかみ、引いた。
じーっ。
何度も引く。
じーっ。じーっ。じーっ。
今時、こんな時計を使ってるところなんてこの店ぐらいのものだろうに。
そう毎日この3時の鐘のあと、柱時計の鎖を引いてぜんまいを巻きなおすのも
あたしの大事な日課のひとつ。
ぜんまいを巻き終わったとほぼ同時にマイヤーおじさんがやってきた。
鐘の音を聞いてやってきたんだろう。
「フィール、あとはいいから迎えに行ってくれないか?」
そのお客様が気になってしょうがないあたしはにべもなくうなづき、
「それじゃ支度してきまーす!」
カウンターの後ろにある階段を駆け上り、一番上の手すりをつかんで
勢いよく方向転換。くるっとまわって自分の部屋のドアを開ける。
机とベッド、ロッキングチェアとマルチディスプレイ、あといくつかのぬいぐるみが
あるだけの部屋だが、ここはあたしの城。
明るい桃色の遮光カーテン、毛足の長めな赤い絨毯。
壁のリモコンでカーテンをしめ、シーリングファン付きの明かりをつけ、
とりあえず机の上にある折りたたんだシルクの敷布の上に小さな銀の杖を置く。
クローゼットを開けた。
一応、ちゃんとした服装のほうがいいのかな?
あたしはお気に入りのワンピースにショールをかけてみる。
ショールは紫外線吸収素材で出来たものだからこの暑い時間帯に
外に出るには必須だ。
髪は・・・このままでいいかな?
そして引き出しから日傘を引っ張り出して開き、姿見の前でくるりと回転。
ん、こんなもんかな?
あとはこれか。
机の上に置いてある水筒をハンドバッグの中に入れる。
そして折りたたんだシルクの敷布の上に置いた30cm弱の柄に蒼い宝石の
ついた小さな銀の杖を太もものストラップに再び挟み込んだ。
先ほども使ったが、銀の杖は魔術を行使するときに必要になるもの。
身の丈ぐらいの大きな銀の杖を使う魔術師−ヴェスタル−もいるが、
あたしはこの小さな銀の杖を愛用している。
だって、これはお父様のもとへ来たときにプレゼントされた大事なものなのだから。
あたしはクローゼットと引き出しを勢いよく閉じ、机の上のお父様とあたしが写った
写真に向かって「いってきます、お父様♪」元気におでかけの挨拶をした。
ドアをあけて階段を駆け下り、、たりはしない。
手すりに腰掛け、すーっと下の階まで一直線!
ぴょんと飛び降り、マイヤーおじさんに挨拶。
「じゃ、いってきまーす!」
「手すりから降りてくるのはやめろといつも言ってるだろうが・・・まったく。。。」
マイヤーおじさんの小言を尻目にドアを閉じ、日傘をさすとあたしは元気よく駅に
向かって歩き始めた。
水筒の中身がなくなるまでに駅前までどりつけるかが勝負。
駅前通りは道路の両側が噴水になってて他の場所より涼しいのだ。
かくして、あたしは水筒の中身のほとんどを費やして駅前通りまでやってきた。
ヴァスティールシティの宿場町という位置づけのエル・ディだが、
駅前通りは日中でもそれなりに活気がある。
露天商が駅前通りにずらりと並んでるのだ。さながらマーケット。
普段、ほとんどの買い物はここですますということもあって、あたしは常連客。
露天商の前を通るとあちらこちらか引き留める声が聞こえる。
「を、シルフィールちゃん。珍しいな、こんな時間に。おめかしまでして」
「あー、ひどいなぁ、あたしだってたまにはこんな格好だってしますよー」
「久々に良いロースがはいってるんだけどどうだい?」
「あー、いまはパスさせてください。待ち合わせがあるので。ごめんなさい」
「いいっていいって。それにしても今日は一段と空気が澄んでるねぇ
いい天気なんだが、あれのせいで台無しだ。」
「あれ、ですか?・・・あぁ、今日は蜃気楼もでてないせいで城とあの
戦艦が見えちゃってるんですね。」
「あぁ。あんなもの(戦艦)とっとと処分してしまって欲しいものだがねぇ」
遠くをみる露天商のあるじの見ている方向にちらりと目をやる。
「もうすぐあれが来てから数ヶ月たってるんですよね・・・」
「あぁ、もうそんなになるか。城下に住んでるひとたちはよく我慢してるよ、ほんとに」
確かに今日はあの戦艦が青い空の下、くっきりとヴァスティールとレスティアを結ぶ
シルクロードの一番目の宿場町であるここ、エル・ディからも浮かび上がって見えていた。
・・・っと、デジタル表示の噴水時計に目をやると到着までもう間もない。
あたしは日傘を閉じて駅まで走った。
改札で入場切符を買い、駅構内にはいる。
構内は空調がちゃんと効いていて涼しい。
ちょっと走っただけでこんなに汗をかいちゃってる。
帰ったらシャワーを浴びないとだめかな?
水飲み場で水筒に水を補充する。
水を注いでるときに、構内にアナウンスが流れた。
「まもなく、ヴァスティール発、クリスティン行きの
飛装帆船(ひそうはんせん)が到着いたします。
係留完了まで白線の外側でお待ちくださいませ」
窓を見るとブリッグ、−2本のマストを持つ比較的小型の飛装帆船−が
集光セイルを折りたたみ、降下・バンクしながら駅舎に向かってゆっくりと
速度を落としながら近づいてくるのが見えた。
飛装帆船。これはこの地方の主要交通手段の最たるものだ。
フォトンファイバーで構成された集光セイル(帆)を展開させ、
地磁気感応型擬似反重力発生装置-リニアクラフト-を備えた空を駆ける現代の船。
砂漠化がひどいこの地方では車より船の方が重宝されていて
燃料効率が悪く悪路に弱くて速度の遅い車はほとんど使われることがない。
現代の飛装帆船は燃料を必要としないのだ。
もっとも、セイルといっても風を受けるわけではない
セイルを展開することにより大気中のフォトンを収集、ジェネレータに送り込み、
圧縮させ、爆発させるのだ。
フォトンは大気中に無尽蔵にあるから事実上の外燃焼機関と言っても
いいかもしれない。
これが飛装帆船が主要交通手段たらしめている理由だ。
係員が計器盤を操作し、駅舎の壁を開かせる。
とたんに押し寄せてくる熱風。
ブリッグはメン、ミズンの集光セイルをクリュー(引き上げ)させ、
バウ(船首)にあるジブ(三角帆)だけでしずしずとプラットホーム
に近づいてきた。
係員が舫をなげ、船体を固縛する。アンカーが繰り出されるとそれと
連動するかのようにプラットホーム下部にある保持アームがゆっくり船体を固定した。
昇降階段をのせたカートが船体に階段を接続する。
再び係員が計器板を操作し、駅舎の壁を閉めさせる。
空調がフル稼働し、一瞬で熱された駅舎の中を冷却しはじめる。
「大変お待たせ致しました。この度はSRSサービスをご利用頂き・・・・・・・」
いろいろな人が船から降りてくる。
さて・・・お客様ってどんな方なんだろう?
あたしのほうは探しようがないのよね・・・。
・・・と、船からひときわ綺麗な女性がトランクをひきながら降りてきた。
ミルク色の帽子を目深にかぶり、長めのトレーンの朱色のドレスを纏った、
少し長身長髪の女性。年の頃は20代前半ぐらいかな?
髪の毛の色は紫銀でかなりの長髪。肌の色は羨ましいぐらいに白い。
ここいらではあまり見かけない
雰囲気だ。
背筋をつんとのばし、かかとをつかず、つま先で歩く。
それだけでちゃんとした家柄の人だとと察しはつく。
その女性はあからさまに高貴な出身であることを感じさせるような、そんな人だった。
そして、恐らくは美人。おもわず見とれてしまう。
あたしからの視線に気づかれちゃったのか、その女性はあたしのほうへ近づいてきた。
え?え?
女性は口元に右手の人差し指をもっていき、逡巡するような仕草をしたあと、
後ろを振り返り、誰も注目していないのを確認した、と思う。
あたしの1mぐらいてまえまで来ると、トランクを手から離して彼女はやさしく
あたしの手をとり、軽く口をふさがせた。そして、目深にかぶってたミルク色の
帽子のつばをあいた自分の左手の人差し指でくいっとあげ、にこやかに微笑んで見せた。
・・・綺麗な人。それが素直な感想。
でもどこかで見たことあるような・・・。じっと見つめられ、思わず赤くなる。
「お出迎えご苦労様、フィール。しばらく見ない間にずいぶんと綺麗になった。」
ぽーっとしてたのところでふと気づく。
いま、この人なんてあたしのこと呼んだ???
フィール???
あたしの名前はシルフィール。おじさんおばさんを含め、友人たちもみんな
シルフィール、ないしシルフィと呼ぶ。
フィールって呼ぶのはお父様だけ。
そこではっとする。
「お父・・様・・・?」
にこやかにうなずく女性、、じゃなくて女装したお父様。
「あたり」
そこで思わずパニックになる。なんでなんでなんで!?あわくってぱたぱたする
わたしの口元で人差し指を立て、
「しー。落ち着いて。深呼吸しよっか。いーち、にー、さーん・・・」
とりあえず、あわててる状況じゃない事を把握して、声にあわせて深呼吸する。
「ふーっ。」
「落ち着いた、かな? それじゃお店に案内してほしいんだけどな。」
お父様は落ち着いた雰囲気を保ちつつもしきりに周囲を警戒してる。
「はい、ご案内いたします。ちゃんとついてきてくださいね。」
あたしはお父様の手を取り、手をつないで駅をあとにした。
メインストリートの両側にある噴水。そしてそのさらに脇にはずらりと並んだ露天商。
「ん〜、久しぶり。相変わらず変わらない素敵な良い街。
でもここからも見えるんだね、あの忌々しいのが。・・・はぁ。」
お父様はくいっとミルク色の帽子をあげると遥か彼方に見えるお城とその脇に並んだ
飛行船型の巨大戦艦をみてため息をついた。
「普段は蜃気楼でみえないんですけどね。時折見えるんです。あたしも
見えて欲しくないんですけどね。威圧されてるみたいで嫌なんです。」
「威圧、ね。」
お父様はまたミルク色の帽子をめぶかにかぶり直すと歩き出した。
「を、シルフィールちゃん、今日はデートかい?」
今度はまた別な露天商のあるじが茶化してきた。
「はいはい、あたしはどうせ男っぽいですよーだ。
そんなこと言ってるともう買いに来ませんよ?」
「まま、そんなこと言わずに。ほれ、もってきな。」
露天商のあるじはリンゴをひとつ、あたしにほおった。
「じゃ、今日はこれひとつで許してあげます」
しゃくっとリンゴにかぶりつく
「あー、またおいでーそこの別嬪さんもどうぞごひいきに」
お父様は会釈だけし、あたしたちは帰路についた。
駅前通りを出るかでないかのあたりでお父様は小声であたしに話しかけてきた。
「振り向かないで。駅を出たあたりから後をつけてきている輩がいる。多分二人。
でも大丈夫。素人のようだね。少なくとも尾行に長けた専門家ではない。
次の角を曲がったら少し距離をおいてわたしの後ろに隠れるんだ。トランクを頼む。」
「はい、お父様。」
あたしとお父様は気づかないふりをして角を曲がる。
狭い路地だ。お父様は路地からちょっとはいったところで立ち止まり
振り返ってじきにやってくるだろう追っ手に向き合う。あたしはお父様のトランクを
受け取り日傘を閉じてさらに10mぐらい奥で振り返った。
駆けて現れたのは20代前半ぐらいのわりと体格のいい男がふたり。
黒いスーツ、なんてしゃれたものは着ていない。
ひとりはジーンズにTシャツにサングラス。もうひとりはパラシュートパンツに
軍の卸し品のジャケットを着ている。
「ほう、待っていたのか、いい度胸じゃねえか。」
サングラスの男が話かけてくる。
「お前ほどの上玉はなかなかいないからな。安心しな、抵抗さえしなければ
悪いようにはしない」
「まぁ、その前にお楽しみが待ってるけどな、くっくく」
サングラスの男がお父様に迫る。
「・・・助かったよ、お前らがただのチンピラで」
「あぁん?なんか言ったか、このアマ!」
サングラスの男が拳を振り上げた次の瞬間、お父様は一瞬のうちに男のみぞおちに
強烈な肘鉄を食らわせた。
「げはっ」
からだをくの字に折り曲げもだえる男。
「抵抗しなければ悪いようにはしないと言ったはずだ!」
ジャケットの男はジャケットからバタフライナイフを取り出し、
お父様に切りかかってきた。
けれど、お父様はそのナイフを持った腕を手に取り、路地の壁に向かって
男を背負い投げした。
ろくに受身もとれずに叩きつけられ、男は気絶した。
つかんでいた手を離し、視線をサングラスの男に向けるお父様。
「ひ、ひぃ!」
サングラスの男は仲間であろうジャケットの男を見捨てて逃げ去った。
「心配していた追っ手じゃなさそうだ。こりゃただのチンピラだな。」
「お父様を本物の女性だと思っていたみたいね。女性を狙った暴漢かしら?
・・・ところでこの気絶してる男、どうするの?お父様」
「ほおっておけ。もう同じことはしないだろう。さあ、行こうか。」
トランクを手にし、ふたりで路地を出る。
暑い日差しが照りつける。
あたしは水筒をバッグから取り出して一口飲んだ。
さらにコップに注いでお父様に手渡す。
「はい、どうぞ。」
「ん、ありがとう。」
飲み終わったコップの水を切って、水筒と一緒にバッグにしまう。
あたしたちはまた日傘をさして、お店に向かって歩き始めた。
その後もお父様はしきりに周囲を警戒していたみたいだけど、
何事もなく無事にお店に戻ることが出来た。
あたしはドアにかかったプレートをCLOSDEにひっくり返す。
とたんに奥からマイヤーおじさんがやってきた。
「レディス様、よくぞご無事で。」
女装したお父様の手を取り握りつつ、よかったを繰り返すマイヤーおじさん。
「心配かけたな、マイヤー。こんな情けない格好だがなんとか無事来ることが
出来たよ。」
お父様はぽん、とマイヤーおじさんの肩を叩いた。
「マイヤー、すまないがとりあえず着替えさせてくれ。今回はやばかった。」
「じゃああたしの部屋で。」
階段を一段とばしで上り、手すりを右手で掴んでくるっと半回転。
あたしの部屋のドアを元気よく開いた。
「女装も今回限りにしたいよ、ほんと。」
とかなんとかいいつつ、もういいのにすっと音も立てずスカートのすそを軽くつまんで
階段をのぼってくる。
カーテンはしめたままなので、照明のスイッチをいれる。
お父様は部屋の鍵を締めると、おもむろにミルク色の帽子をとり、ドレスをベッドに
脱ぎ捨てた。いや、ほんとに脱ぎ捨てたのだ。
・・・貫頭衣を着てる・・・。
「お父様、ドレスの下に貫頭衣を着てたの??」
お父様はルビー色の髪留めを外しながら答えた。
「下着まで女性ものを見につける趣味はないぞ。女装だって嫌々ながら、
他の選択肢がなかったんだ。わたしはどうも目立ちすぎるきらいがあるからな」
と、手の中で弄んでいた髪留めをあたしの方に投げてよこした。
「ほれ。プラチナ製、石もちゃんとしたルビーの値打ちものだぞ。
気に入ったようなら使え。ドレスの方は・・・ちょっと丈があわないかもしれないかな。
好みならおばさんに仕立て直ししてもらえ。」
見事な細工が施された髪留め。
「・・・お父様〜、女装これがはじめてじゃないでしょ?」
しばしの沈黙。
「・・・あたり。でも毎回好き好んでやってるわけじゃないぞ。」
憮然とした表情でロッキングチェアにどさっと腰をかけるお父様。
「これ、ありがたくもらっとくわ。再会記念ということにしましょ。」
あたしはそういうと、銀もといプラチナの髪留めをポケットにしまった。
・・・で、お父様が話しを切り出してくれるのを待つ。
ほんとは抱きつきたい心境なんだけど、とりあえずはがまん。あたしはお父様に
向き合う形でベッドに腰掛けた。お父様が嫌々ながら女装をしてまでココにきた、
いや戻ってきたということは何かしらの問題が起きたからに他ならないから。
するとお父様は、、、
「すまないな、折角ココに戻ってきたというのにフィール、君に会うのが
目的じゃないんだ。許してくれ、なんて言えないな。」
最後にお父様に会ったのは何年前だろう?
「ううん。気にしないで。あたしはお父様に会えただけでも幸せなんですもの。」
ぎぃっ、、。
ロッキングチェアがきしむ。
お父様はあたしのほうに歩み寄り、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「お父様・・・。」
あたしもお父様をぎゅっと抱きしめかえす。
あったかい。お父様と慕える父が今、ここにいる。聞きたいこと、教えて欲しいことは
山ほどある。けど、いまは駄目。
あたしは一度強く抱き締めたあと、お父様を離し、尋ねた。
「さ、お父様。大事なこと、なんでしょ?相手はあたしでいいの?」
「とりあえずマイヤーを呼んできてくれ。話しはそのあとだ。」
「わかったわ。ちょっと待っててね。」
あたしは鍵をあけ、ドアから顔を出してマイヤーおじさんを呼んだ。
「おじさーん、マイヤーおじさーん、お呼びよ〜」
下のフロアで返事が聞こえる。
マイヤーおじさんはゆっくりと一段一段と階段を上ってやってきた。
「おじさん、早く早く。」
「まぁ、そんなに急がせんとな」
おじさんが部屋に入ったのを確認してドアに施錠をする。
「家族のお話は終わりましたか?レディス様」
「まぁ、ね。」
ばつが悪そうに短く答えるお父様。
「とりあえず汗を流してからにしようか。シルフィール、先にいっておいで。
わたしもそのあとでシャワールームを使わせてもらおう。」
「はーい。じゃ、お父様、お先に。」
あたしは左足の太もものストラップに挟み込んだ銀の杖をスカートを少しだけ
まくり上げて取り出し、机の上にある折りたたんだシルクの敷布の上に置いた。
クローゼットから着替えを出し、手に抱えるとあたしは部屋をあとにした。
着替えを脱衣所に置き、ドアにかかったプレートを使用中にひっくり返す。
「うわぁ、やっぱり下着までびしょびしょだわ。早くシャワーを浴びよっと。」
お父様も待ってることだしちょっと急ごう。
脱いだ服と下着をたたみ、洗濯物の山にのせ、シャワールームに入った。
きゅきゅっと蛇口をひねると気持ちいい冷水がほてった身体を冷やしてくれた。
「あー、やっぱり外に出た後はこれよね〜。生き返る〜。」
身体のほてりが消えると思考がクリアになる。
中枢都市レスティアにいたはずのお父様は女装なんて真似をしてまでして
ここ、エル・ディまでやってきた。
やっぱりいまのヴァスティール政権のことなんだろうか。
あの巨大戦艦を持ち出してきた現在の政権。決して評判はよくない。
「・・・けどまぁ、いま考えても仕方ないか。」
十分にほてった身体を冷ませたあたしはシャワーを止めて、
シャワールームを出ると洗ったばかりの新しい下着と新しい服に着替えた。
さっ、部屋に戻ろう。お父様が待ってる。
階段を駆け上がり、自分の部屋に駆け込む。
「お父様ー、シャワールーム、使って良いわよー」
「あぁ、ありがたい。それじゃあがったら二人に話しをするから
少し待っていてくれ。」
「お父様、着替えは?」
「トランクに1セット持ってきてる。大丈夫だ。」
そういうとお父様は持ってきたトランクをあけ、着替えを取り出すと
部屋をでて階段を下りていった。
「マイヤーおじさん、お父様と何話してたの?」
「たわいもない世間話とおまえのことだよ、シルフィ。
ここに置き去りにして連絡を絶っていたことを詫びていたよ。」
「置き去りかぁ・・・確かに連絡がなかったのは少し寂しかったけど・・・」
「一仕事終わるまではこっちに滞在するらしい。存分に甘えると良い」
あたしのぽっと顔が赤くなる。
「う”〜。・・・そっか、しばらく居てくれるんだ。嬉しいな。」
10数分後、お父様は部屋に戻ってきて、あたしたちにここにやってきた
理由を話し始めた。
ほんとの身内しかしらないことだけどお父様には二つの顔がある。
ひとつは2代目麗騎士としての顔。
落ち着き凛々しく刃のように鋭くそして美麗な装い、振る舞い。
ほとんどのひとが知ってるのはこっちのお父様。
でも身内にしか見せない、ちょっとがさつでひとなつっこくてほんの少しだけ親馬鹿な
23歳という年相応の振る舞いをするお父様の顔もある。
両方ともお父様。けれど、そんながさつでひとなつっこくてほんの少しだけ親馬鹿な面を
見せてくれることに安心を覚える。お父様が気を許してくれてることの証だから。
そして部屋に戻ってきたお父様は麗騎士としてのお父様だった。
「早速だが本題に入ろう。「エフィメラを奪回して銀の剣を持て」、これが
ジュリアからの最後の連絡だ。それからはずっと音沙汰無しだ。」
ジュリアさんというのはジュリアス・クレスト・ディス・ログナー、つまりは
お父様のお兄さんのこと。
ジュリアスさんは稀代の科学者であり、同時に高度な錬金術師でもある。
世界には魔術師、地・水・火・風・闇・光、そして刻、これらの力を
術式によってマテライズ、つまりは顕現化させる「魔術」と、等価交換という
原則の元、術式を編み上げ、対価と錬金術の魔法陣であるマジックサーキットを
用意することで起こすことができる「錬金術」というものが存在する。
魔術師は一般にヴェスタルと呼ばれる。
ヴェスタルは大きく分けて地・水・火・風・光、そして闇を
元に術を紡げる者と、刻というヴェクトルを元に術を紡げるものにわかれる。
これらの術の元となる力は世の中に無尽蔵にあふれている。
けれど、それを練成し、術を紡ぎだされるものはあくまで術者の
「技量」と「資質」に依存する。そして、多くの術は「資質」
に依存するところが大きい。この資質は隔世遺伝的なものも存在するが、
多くの場合遺伝的なものとされており、ヴェスタルの子供は
ヴェスタル足りえることが多い。
そう、無から術を紡ぐことのできる資質、それこそが「魔力」であり、魔法なのだ。
逆に言えば、錬金術は無から有を起こすことが出来ない。
何かを起こすにはそれ相応の対価が必要だしきちんと手順を勉強していれば
誰でもある程度の錬成を行うことは出来る。
もっとも、それなりのセンスが要求されるが。
そう、まじめに錬金術の仕組みの勉強に取り組んだ者が行使できる、
錬金術は高度な科学なのだ。
「言われたとおり、銀の剣はマリーナに停泊させてるケッチ −二本マストの飛装帆船−
に積んで持ってきている。それにいまのヴァスティールの統治を母上ではなく
ドゥガルが行ってることはレスティアでも風の噂で聞いた。
こんなときにジュリアは、あいつは一体どこで何をしてるんだ?」
「レディス様、あの戦艦はもう見られましたか?」
「あぁ、ヴァスティールで飛装帆船に乗るときにも見たし、ここにくる間にも
蜃気楼の合間から見えてたよ。名前はテンペスト、だったか?旧ディティス帝国
崩壊の折りにレスティア連邦評議会が接収したものだろ?」
「ええ。その後、飛装帆船が一般化するようになって退役扱いになっていたものを
ドゥガル元帥、いえいまは大公ですな。・・・が服役・改装を施して粒子ビーム砲と
レールキャノンの搭載、機動ユニットの搭載を行い現代戦に対応できるようにしたものです。
もう数ヶ月も前の話しになりますが。ですが、真の目的は・・・」
「威圧だろ?他に理由なんてないさ。ガンデッキはオープン、俯角をめいいっぱい
取って城下町を狙ってた。たしか4層甲板の戦列艦だろ?百門近くレールキャノンを搭載
してるんじゃないか?奴は元帥からなりかわっていまは大公だったか。
そのほうが動きやすいと判断したんだろうが・・・戦艦による威圧。
軍人らしいやり口だよ、まったく」
ここ、ヴァスティールはレスティア連邦の南部にあたる自治都市で、
代々クレスト家、つまりはお父様の家系が統治してきた。
だが、先日内乱がおき、統治者だったエルフィア・クレスト・トランシア妃と
彼、ジュリアス・クレスト・ディス・ログナー、そして妹のエフィメラ・
クレスト・トランシアが突然の失踪を遂げた。
そして当時軍を束ねる元帥であり有力者であったドゥガル・ド・ファインバウムが
トランシア妃を守るヴェスタル・ラ・ギルドの反対を押し切り、緊急措置として
ヴァスティールの政権を握るに至った経緯がある。
「それが行方がわからないのです、レディス様。
失踪した、という話しがあがってますが、エルフィア妃と卿がお家の一大事に
逃げ出すとは思えません。おそらくは城内のどこかに幽閉されているのではないかと。
あるいはすでに手にかけれているか・・・」
「エフィメラは?」
「おそらくはエルフィア妃同様に幽閉されているのではないかと。あるいは
考えたくありませんが既に・・・・」
「いや、それでは説明がつかない。
ドゥガルが母上の失脚を狙っていたことは公然の秘密だ。
母上はレスティア連邦評議会の中でも発言力が大きい。
さらにいえば数少ない良心ともいえる。暗殺はリスクが大きすぎる。
だから、息子のジュリアの非人道的ともいえる研究を連邦評議会に暴露して
完全な失脚を狙っているのだと思う。
だからジュリアと母上はともかく、エフィメラは別扱いをうけていると思う。
最大の切り札だからね。」
ジュリアスの非人道的ともいえる研究、それはサイバネティクスチャイルドを
AI上で実現させるというものだ。
それだけであれば世間的に見てなんら問題はない。ただし、彼の場合は
その開発研究手段に問題があった。
実験素体として実の妹のエフィメラを使ったのだ。
催眠と高度な錬金術によって表層意識を沈め、深層心理内に閉じ込めて
一時的に生きた「人形」とする。
その人形にサイバネティクスチャイルド・エフィメラとしての擬似人格を与える。
ヒトの3つの深層心理に在る意識だけの存在。
すなわち、食べること、眠ること、そして性欲。
・・・まぁ、この深層心理は年齢相応だからエフィメラの場合は
二つだけにしか反応しないと見ていいだろう。
そして、エフィメラの表層意識、エフィメラのもつ「本来の人格」は
封印を解くか、封印のプロセスを最後まで終えるまで戻ることはない。
息もしてる。お腹がすけばご飯だって食べる。もちろん眠くなれば眠る。
身体だって成長する。
けれど、ただそれだけ。
これを生きている、といえるのか。
生きてる人形。そう、エフィメラさんはいまそういう状態のままなのだ。
如何にエフィメラが自ら進んで実験素体となったとはいえ、
人道的に、世論的にみて問題は多すぎるぐらいだ。
そんな研究が統治者たるエルフィア妃の庇護下のもともとられかねない城内で
行われていたのだ。
知らない、知らなかったではすまされない。
「レディス様、既に大公はレスティア連邦評議会にエルフィア妃と
クレスト家の失踪を打診した、と耳にしておりますが、レディス様、ご存知は?」
「ない。確かにレスティアにいるけどね、それほど皆が思ってるほど全てに
通じてるって訳じゃないんだ。」
「さらに、つい先日大公は連邦評議会に対して状況の視察を依頼した、
とも伺っております。
恐らくは今後の統治について話し合うつもりなのではないかというのが議員たちの
見解です。
レディス様の居ない今、シレーヌ公家も不在、加えてヴェスタル・ラ・ギルドの
長であったアリステア様が亡くなられた今、彼等も身動きが取れない状態です。」
「亡くなった!?アリステアがか?何故?」
「いえ、耳にした話しがヴェスタル・ラ・ギルドの長が空席になったという
だけですのでどのような経緯でかまでは・・・。」
しばらく腕を組み、目をつむって考えにふけってたお父様はロッキングチェアから
たちあがり、こう言った。
「・・・・よし、エフィメラを救出する。銀の剣はエフィメラなしではろくに起動も
できないでくの坊だ。それを持ってこい、と指示した意図はエフィメラをドゥガルの
配下から逃れさせよ、ということだと思う。そしておそらくは研究は既に完了している。」
少し思案したあと、あたしはこう答えた。
「お父様、あたしもお供します。」
「ダメだ。危険とリスクが大きすぎる。フィールを危ない目には遭わせられない。」
「でも相手にはヴェスタルもいるのよ?初歩的ではあっても魔術を行使できる
あたしがいたほうが柔軟に対応できるわ」
「だ〜め〜だ。ヴェスタルだろうが近衛兵だろうが、わたしがひとりでさばけば
いい話だ。フィールはそれよりバックアップにまわって欲しい。
そうだな、具体的にはこの場所で待機。」
「そんなぁ〜。」
「重要な役目だぞ?帰る場所がなければ勝ち戦はできない。
それでマイヤー、あなたにはわたしが城に潜入した後、頃合いを見計らって
城の正門までわたしのケッチ、センチネルを持ってきて欲しい。
わたしが城内で派手に暴れれば城の外の警備は手薄になる。
それにセンチネル自体はコンテナを積んだ偽装したケッチだ。
厳戒令が降りてるわけでもないし、正門前にセンチネルを停泊させていても
問題はきないだろう。わたしはエフィメラをみつけたらセンチネルに戻って
そのまま銀の剣に搭乗する。
無論センチネルで逃走を図るが、逃げ切れる保証はない。
その場合は銀の剣でわたしが退路を確保する。」
「あー!、ならあたしもマイヤーおじさんと一緒にセンチネル号で迎えに行くわ。」
「だからダメだ。最悪のパターンを常に考慮しなければならないからな。」
「それってエフィメラさんの救出に失敗したか、銀の剣、だっけ?それの起動に
失敗したときって意味でしょ?それこそ範囲攻撃ができるあたしの出番でしょ?」
「・・・・。」
「それにケッチと言ったけどマイヤーおじさんだけじゃ操船が精一杯なんじゃないかしら?
センチネルの火器管制は誰がやるの?
それに逃げるだけならそんなに危険はないでしょ。ね、お父様!」
「・・・・・・・・。」
「あー、黙り込んだー!いいもの、あたしだって力を持ってるんだから。」
あたしは机のシルクの布の上に置いてある銀の杖を手に取り、
バルコニーへの窓を開け放った。
銀の杖をふるい、魔法陣を描く。
そして術を編む。
光の弾が銀の杖の先端に宿り、次第に大きくなっていく。
そしてサッカーボール大になったとき、左手を杖を持った右手に添え、
魔力を解放した。
「いけぇっ!」
光の弾は軽い反動をあたしに与えた後、バルコニーまで飛んで行き、
爆炎を立ち上らせた。
「アリステアさんみたいにはいかないけど役に立てるわよ、きっと。」
どうだ!とばかりに胸を張ってみせる。
あたまをかかえ、悩むお父様。
「レディス様、この子も力になりたがってるんですよ。
実際問題、わたしは操船だけで精一杯です。シルフィがいてくれたほうがわたしも
助かる。」
お父様が麗騎士の振る舞いからいつもあたしの前で見せるほんとのお父様に戻る。
「・・・わかった、だがこれが最大限の譲歩だからな?」
お父様の首にとびつき、抱きつく。
「大好きよ、お父様!」
抱きつき、ほほにキスの雨を降らせる。
「こら、わかったわかったから!」
「よかったな、シルフィ。・・・それで決行は?如何なさいますか?」
「なるべく早いほうが良いだろう。むやみに時間をあけるべきではない、と考える」
お父様はロッキングチェアから立ち上がり、おじさんに話し掛けた。
「マイヤー、すまないがわたしの代わりにセンチネルをここにもってきて欲しい。
これがキーだ。郊外の公営第2マリーナに停泊させてある。」
おじさんはキーを受け取ると、
「承知いたしました、レディス様。それではわたしはいったん失礼します。」
軽く頭を下げ、部屋の鍵をあけると外に出ていった。
あたしは鍵を閉めなおした。
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